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「お前は本当にバカだな!」

「うーん、やっぱりここはいいなー!」
青年はスクーターから降りると大きく背伸びをした。
都会から新幹線に乗って三時間、さらに電車を乗り継いで二時間、最後にスクーターをレンタルしてのんびり一時間。
そうしてやっとたどり着いた場所が青年の故郷である、この山と海に切り取られた僻地の村であった。

「おーーーい、エイジーーー」
遠くから、数人の若者たちが駆けてくる。
「帰ってくるならもっと早く連絡してよー!」
「うわあホントにエイジだ!帰ってきてるよ!」
村外れだというのに、わざわざ駆けつけてくれた旧友たちの姿に思わず青年―佐津間栄治もスクーターを置いて駆け出す。
「ワザワザこんなくそ暑ぃ時にまでお出迎えごくろう」
エイジが踏ん反りがえると、すかさず長身の青年が彼の頭を殴る。
「エーちゃんちっとも変わらないねー」
少女はそのままじゃれあうような取っ組み合いを始める二人を眺めて楽しそうに笑う。
「都会に行って、有名人になってもエイジはエイジだよ、変わらないもん」
少年が満面の笑みで暴れるエイジに抱きつきながら断言する。
とたんに栄治は取っ組み合いを止め、ひどく真面目な顔になって俯いてしまう。

「ホントにそう…思っててくれるか?」

ほんの気まぐれでネットに歌声をアップしたことが、エイジの運命を変えてしまった。
とある大物に見出され、彼の元で声楽の修行をしないか、と誘いが来たのだ。
しかもかなりしつこく。
そして、この村を探り当てた大物が直接おしかけストーキングまがいのことを行った時、友人たちは全力でエイジを守ってくれたのだ。

最終的にエイジが修行に行くと選択したため事態は丸くおさまった。
しかし、エイジの心には仲間を裏切って都会に逃げたような後ろめたさがわだかまっていた。
さらに都会では色々な事が目まぐるしく彼を追い立て、変化を強制していったのである。
もう、自分は彼らの仲間であるエイジでは無くなっているのではないか、そういった不安に押しつぶされそうになったことは少なくない。

「お前は本当にバカだな!」
長身の青年がいきなり大声を出す。
「そうね、馬鹿だね。」
「ばーーーっか」
続いて他の二人も宣言するように言い放つ。

俯いたエイジの心にその言葉が矢のように刺さる。
ツーンと鼻の奥が痛くなり、涙がこみ上げ、抗うことも出来ずに乾いた砂利道に涙を落してしまう。
仲間だと思っていた?裏切って都会に行ったくせに。バーカ、バーカばー…

「え?え?エイジ?何で泣くの?」
「エーちゃん、泣かないでエーちゃん」
おろおろする少女と少年を押しのけ、青年はエイジの顔を無理やり上向かせ目線を合わせた。
「エイジ、お前はお前だ。俺たちの仲間だ。それが都会に行ったくらいで変わると思うのか?
変わるわけないじゃないか。もし変わったと思うのなら、お前は本当に馬鹿だ」
「へ?…怒ってたわけじゃ…」
真っ赤になって鼻水と涙にまみれた顔で、仲間を見回す。
「じゃあなんでわたしたち、こんなくそ暑ィ日にエーちゃんをお出迎えしたの?」
「そんなかんたんなことも分からないなんて、やっぱりエイジはお馬鹿だね」
しばらく改めて再開を喜び、仲間とともに実家への路を急いだのであった。