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機械

罪悪感は吹っ飛んでいた。
欲望を満たして何が悪い。これは恋だ。そう思った。

ヒトの社会にロボットがあるのが当たり前の現代。
ロボットに対して性的関心を抱く若者の急増は、歪んだ社会現象として問題になっている。
僕に言わせれば、本来ロボットというものはヒトに心地よいデザインと役割を与えられているのだから、
好ましく感じて当然なのだ。
通信手段が発達して、コミュニケーションは希薄になる一方だ。
ろくに会えない異性を恋うより、身近な存在を大切に思うことのほうがむしろ自然ではないか。

僕の恋の相手は、ともに働く会社の同僚……だった。
物流会社の倉庫管理業務を、ヒトと組んで行う人間型のロボットだ。
なめらかで人工的な肌と瞳のない目をもつ彼は、汎用型ながら時に冗談も言えるこなれた機体だった。
もう十数年も稼働しているという。古いロボット、というより僕にはベテランの先輩と思えた。
最初は気の迷い、次には葛藤。やがて感情が理性をうわまわり、とうとう僕は告白した。
世間では認められないながらも結婚までするカップルもあるというニュースが、僕を後押しした。
彼のボイスは男声だったが、いまさら異性でないことに問題があるだろうか?
「それは気の迷いです。あなたの脳は錯誤しているのです」
彼の指摘は正しかっただろう。
「じゃあ、一生つきあうわけじゃないと言ったら? 僕の、その、処理の相手ってのは……嫌?」
彼が表情を浮かべるはずもない。
「私の所属はAAA人材派遣会社ですから、業務としてあなたに派遣されることができます」

僕の自室で、お互い裸になった。
彼の作業服の下を見るのは、初めてだった。
「横になって、リラックスしてください。あらかじめお望みいただいたようにいたします」
彼はあからさまな言葉は使わなかった。
派遣会社にはそれなりに恥ずかしい注文をしなければいけなかったが、この場ではムードを壊さないようにちゃんと考慮されている。
彼は慣れているのだろうか。
そんな馬鹿な考えがよぎったが、あわてて頭から打ち消す。
「なんとお呼びすれば?いつものように横山さんでいいのでしょうか」
秀明と呼んでもらうつもりだったが、親しんだ声がいつもの呼び方で僕を呼んだことで嬉しくなる。
「うん、それがいい」
目をつぶる。どうしても強ばる体を深呼吸でなだめていると、僕の肌に彼の手が触れた。
(……あ)
彼の手に触れるのは、初めてだったのだ。そういえば仕事でも触ったことがなかった。
──なぜそれで恋だなんて言えたんだろう。
初めて触れた彼の手が、温かいなんてしらなかった。
この時代、ロボットは人間に違和感を与えない形でデザインされている。
だからなのか。彼のヒトよりも大きすぎる手は、柔らかく、温かかった。
そこから呼び起こされる快感。気持ちがよくて、素晴らしくて、とても、とても優しい。
僕は夢中になりかけて……急激な罪悪感に襲われた。

これが恋なもんか。
彼は今、僕のための機械だ。
彼は、僕のことを好きじゃない。好きにならない。絶対に、永遠に。
こんなことを僕は望んでいたのか。

僕は彼に中止を命じた。
彼の優しい手は、僕の涙をぬぐってくれた。