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明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明

「大丈夫、大丈夫。もう十分練れてるよ、これ以上心配ばっかしてもダメよ?
 心配ばっかしてて企画はできないのよー、タメちゃん」
パン、と景気よく手を打って、江島が席を立つ。
俺にはよくわかる。
江島は、言葉とは裏腹にこの企画に納得しきれてないのだ。
会議室のテーブルには、各人三杯ずつのカップラーメン。
若者向けの期間限定企画として、軽いノリで作られた激辛シリーズのキムチ、わさび、黒ゴショウ三種だ。
「さあ、いい加減腹もいっぱい、順番が逆だが食後のビールといこうぜ!」
おごり好きの江島の言葉に、チームメンバーも喜んで立ち上がる。
俺もいい加減口がつらい。辛い物はだいたい好みじゃないのだ。立て続けに三杯は苦行だった。
だからなのか。
……美味いと思えない。
食ってから一言もしゃべる気になれないのは、ヒリヒリする唇のせいじゃなく、
何と言ってダメ出しをしようかずっと考えてたからだ。
江島はそれも察している。だからこそ、お茶を濁そうとしている。
他のチームメンバーを味方につけて、多分俺が否定的なことを言おうものなら
『お前はすぐそうだ、なんでもダメだ、無理だとバックギアに入れる』
と、さっき言ったような印象操作で自分の意見を通そうとするだろう。
お気楽企画だと思って手を抜きやがって。
俺は黙って座ったままでいる。
「……でさ、タメちゃん。どうしたらいいと思う?」
江島がこんな顔になるのは、ふたりきりの時に限る。
こいつのこの悲しい性分を知ってるのは俺だけ。
「キムチ、やめよう」
俺は考えていたことをようやくぼそぼそと口にする。
俺の小さな声を聞き取るために江島が耳を寄せてくるが、その距離も許す。
呼吸器の弱い俺は、人前で大きな声で意見を言うのは苦手だ。その小さな声を江島が拾ってくれる。
「キムチはいい加減ありふれてる。このままじゃただの普通の激辛ラーメンだ、だろう?」
「……それでいいかと思ったんだがな」
「期間限定だからこそ、話題性は必須」
チームメンバーは俺の事を悲観論者、暗い面白くない奴だと思ってるだろう。
でも俺は自分を知っている。これでも俺はなかなかのアイデアマンだと思うのだ。
ただ、人に好かれない自分も知ってる。だから、江島を待つのだ。
江島こそ、真の悲観論者だ。太陽のように振る舞った後、必ず怖くなって俺を頼る。
こうしてギブアンドテイクの関係が成り立った。
江島に利用されてるとは思わない。俺が利用しているのだ。
「あのな、江島。みんなコッテコテには飽きてると思うんだよな。俺なら、俺が食べたいのはさ……」
俺は、俺の案を江島に授けてやった。
聞いた江島は、
「それ、お前の好みじゃん! でも美味そうだよね、なんかいけそう?」
やっと、肩の荷を下ろしたように笑った。

「呑んだ後にあっさりお茶漬け、の代わりに『のりわさびラーメン』」
シリーズには和風スープ黒ごしょう、梅かつお。
俺達の企画は、若い女性や年配層に受けて小ヒットとなった。
「やっぱりなー、当たると思ったんだよ」
江島は、今日も大きな声でみんなの真ん中だ。似合ってる。
俺は、自分好みの商品を世に送り出せて満足。
みんなに教える必要はない。俺達はベストコンビなのだ。