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朝日が昇る

「眠れないんだ」
午前1時、電気を消した暗い部屋の中を、今日も同居人が俺の布団に潜り込んでくる。
「うわ。男くせー」
「悪かったな。じゃあ自分の部屋で寝ろよ」
「ごめんごめん。でもなんかこの匂いすげー安心する…」
そう言ってしばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてくる。
眠れないとか言う割には、いつもひとりでさっさと寝付いてしまう。
それだけ安心してくれているということなのだろうか。俺は何とも言えず複雑な気持ちになった。

同じ大学に通う同居人が眠れないと訴えるようになってから、もう2週間ほど経つ。
理由を尋ねても「何だか不安なんだ」と答えるばかり。
ノーテンキとしか言いようのないこいつが何を言っているのだろうか。俺はどうも納得がいかない。
そして変な期待をしそうになって、そんな訳はないと慌ててそれを打ち消すのだ。

「うーん…」
同居人が寝返りを打った。反対側を向いていた顔がこちらに向けられる。
息がかかるほどの距離しかない。俺はそっと手を伸ばして、髪に触れてみる。
指で梳いて感触を味わったあと、頬へ手をすべらせて、親指で唇をなぞる。やわらかい。
胸がどうしようもなく高鳴るのがわかる。吸い寄せられるようにして顔を近付ける。
唇と唇が触れるか触れないかというその時、同居人は再び寝返りを打って、反対側を向いてしまった。
心臓が止まるかと思った。
俺は同居人からなるべく遠ざかろうと、狭いベッドの端ぎりぎりまで身体を移動した。
頬が熱い。上がった心拍数はなかなか治まりそうにない。

カーテンの隙間から薄く光が漏れ入ってくる。
もう何度耳にしたかわからない新聞配達のバイクのエンジン音も聞こえてきた。
また同じ朝を迎えたのだ。
今日もきっと講義の途中で眠ってしまって、隣に座ったこいつにお叱りを受けるのだろう。
人の気も知らないで。
まったく。毎夜毎夜、眠れないのはこっちの方だ。