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台風のせいで

ごおお、と風がガラスを揺らした。
何時もなら立ち並ぶビルが見える窓の外は雨と風に遮られて真っ白になっている。
確かに昨日のニュースで台風が突然発生したのだといっていたが、まさか直撃するとは…
あまりの運の無さに笑いすら零れる。

「映画、行けなくて…残念でしたね」

僕は隣に腰掛けている先輩にそう言った。けど、残念なのは先輩だけじゃない。
大きな大会も終わって、部活に空きが出来て。二人の予定がやっと噛み合ったのに。
僕の休みを熟知した上で、先輩がチケットを持ってきてくれたとき、本当に嬉しかったのに。
それだけじゃない。今日は朝からすごい雨で、びしょ濡れになりながら僕の家まで来てくれた
先輩を見たとき、「今日はもう外出できない」なんて考えていた自分を情けなく思ったくらいだ。

「チケットまで用意してもらったのに。…先輩?」
「あ、…うん、そうだね」

僕の言葉に、酷く曖昧な返事をした先輩は、一拍置いて顔を顰めた。

「この雨、俺の所為かもしれない」
「え?」
「今日の映画、確かに楽しみにしてた。やっと休みが重なって…」

先輩が目を合わせてくる。端正な顔に正面から見られて、息が詰まりそうになった。
軽くシャワーを浴びたから、僕の腕を軽く掴む手は未だあたたかく湿っている。
「やっと一緒にいられるんだって。でも、少しだけ外出したくない気もあったんだよね」
「先輩…」
「雨が降れって。台風が突然来てしまえって思った。そうしたら…」

軽く腕を引かれて、思わず目を閉じる。
先輩の濡れた長い前髪が、僕の頬に、あたる。

「そう、した、ら?」
「ずっと君をいられるんじゃないかって。誰にも邪魔されずに、二人きりで」
「僕の家に?」
「そう。そう考えてたら本当にきちゃった」

ごめんね、とおどけて笑って見せる先輩が、今日の朝以上にずっとかっこよくみえる。
今度は額に、目尻に、次々と唇を落とされる。

「だから映画はまた今度。今日はずっと一緒にいよう、ね?」


台風、ありがとう。