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癒やせない苦しみなら共に分かち合いたかった

知ってはいたのだ。
自分を護るために、彼がどれほど無理をしていたのかを。
それを知りつつも尚、ミケランジェロが見えない振りをしていたのは、
ひとえに彼が、その苦しみに気付かれることを恐れていたから。
彼の望みが、この自分が健やかに穏やかにあることならば、せめて、それをまっとうしよう、と思った。
彼のために、いつでも明るくいようと、純粋無垢であろうと、笑っていようと、そう、決めたのだ。
彼の傷を、苦しみを思えば、出来る、と思った。

それでも、その傷に、苦しみに、気付かぬ振りをするのは容易なものではなかった。
ともすれば心配で曇りそうな表情や、不安と怖れで緩む涙腺に気をつけながら、
知らぬ振りを貫き徹せるとはとても思えなかった。
ミケランジェロには自分が、知らぬ存ぜぬで現実に目を背け、辛いことは全て彼に任せ、のうのうと生きている木偶人形のようにしか思えなかった。
本当は、癒せない苦しみなら共に分かち合いたかった。
こんな風に、ただ過保護にされているのは性に合っていない。
一緒に戦うことはできなくとも、せめて寄り添っていたかった。


日に日に酷くなり、増えていく傷を見て、ミケランジェロは、
とうとう、その自らに架した誓いを、破って仕舞った。
「もう…もう止めようジークハルト!」
「何を言ってるんだ、ミケランジェロ」
彼は微笑を浮かべて、虚しく嘯いた。
「大丈夫、俺はまだ戦える。大丈夫だ。お前を護るのが俺の役目なら、お前がいる限り、俺は何度でも…」
「嘘つき!そんな体で戦ったら、今度こそ…!」
それ以上先を口に出すことは出来なかった。
ミケランジェロはうわ言のように止めよう、ね、止めようと繰り返した。
「そんなわけにはいかない。
神の代行者たるお前を手中に収め、均衡を破壊せんとするものは沢山いる。
俺は、そんな輩の手に墜ちるお前を見たくないのだ」
「でも…っ!僕は…僕はジークハルトが死ぬところを見たくないよ!」
そう言ってミケランジェロは白い祭礼服が血で赤く汚れるのも構わず、彼を抱き締めた。
そこでやっと、彼が逡巡の色を見せる。
「いけない、聖なる身に血の穢れは、」
「…聖なる身、神の代行者と人は言うけれど、」
ミケランジェロは彼に似つかわしくもなく、嘲笑うかのような皮肉な笑みを浮かべた。
「僕だって人間だ。感情もあれば、…性欲だってある。ただの人間なんだ!」
気付いていたでしょう、ジークハルト!
ミケランジェロは悲痛な叫びをあげた。
「ジークハルト、ねぇ…」
彼はキスをねだるように名前を呼んで目を伏せた。
ジークハルトは逡巡したあげく、悔しそうに顔を背けた。
「俺には出来ない、ミケランジェロ!お前を傷つけることは、俺には…!」
「馬鹿!」
ミケランジェロは何をされるよりも傷ついて、ジークハルトをなじった。
「なにもしないことが一番僕を傷つけるんだよ!
僕はただ、ひとりのにんげんとして、君と一緒にいたいだけだよ。
本当はもうずっと、ただ見てるだけなんて、辛かった。耐えがたかった。
癒えない苦しみなら、共に分かち合いたかった」
ミケランジェロはその大きな目に涙を沢山溜め、彼を見上げる。
「ねぇ、もう、どうしたらいいか、分かるでしょう!」
彼はもう一度ジークハルトに抱き付いた。
お願い、お願いだから、と何度も呟いて小刻みに震えるミケランジェロは、まるで幼児のようだった。

ジークハルトは、すまなかった、と囁いて、その華奢な躯を抱き締めた。

彼はもう、ためらわなかった。