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傘があるのにずぶ濡れ

「ええええええ、お前、なんでそんな濡れてんの!」
土砂降りの雨の日曜日、来ちゃった☆、とばかりにうちの玄関先に立つ
親友の顔を見て、俺は思わず大声を出した。
「傘!傘、お前持ってんだろ!?」
玄関のたたきにみるみるうちに水溜りを作りながらにこにこしてる
そいつの手には、見間違いでなければしっかりと傘が握られている。
「えー、雨降ってたら濡れるの当たり前じゃん」
傘という人類の知恵を全否定するようなことを言いながら、そのまま
家に上がりこもうとする。冗談じゃないよ、このバカ。
「雑巾とって来る、動くな。ステイ」
手の平を向けてそう命令すると、風呂場に雑巾をとりに行く。
「え、タオルじゃないの?」
贅沢なことを言ってるのを無視して、適当な雑巾をとって玄関に戻ると
ぶるるるる、と犬のように髪を震わせてるそいつがいた。
「あああ、ばか、水が飛び散るだろ!今日親いないの!俺が全部掃除すんの!」
がしがしと頭を拭いてやりながら、せっかくの一人きりの休日を惜しんで俺はため息をついた。
「で、なんで傘さしてるのにそこまで濡れたんだよ、プールにでも行った?」
遠慮なくうちのシャワーを借りて、俺のシャツとパンツを着て、うちの冷蔵庫からコーラを出して
えーペプシじゃないの、なんて言いながらリビングの俺の隣(近いよ!)に
座るやつを横目で見て、俺は一応聞いてやった。
今度はシャワーの水滴をちゃんと拭かないせいで、
また中途半端に長い茶髪が束になって顔の周りにへばりついてる。
なんか、なんていうか、その上気した顔は……。
「今、俺の顔見てただろ」
どきっとした。
「見てねーよ、つーか水滴落すなよ、今日親いないから掃除すんのお……」
ふふっふふふっふ、と変な笑い声をたてながら、そいつはいきなり俺に抱きついた。
「見てたせに、見とれてたくせに!だいたいさ、親いないとかそんなに
何回も言っちゃって、襲うよ?」
嫌というほど雨を吸い込んだ大きな目が、きらきらと光って俺を見つめる。

「ふざけんな!もう知らねー、誘ったのそっちだからな!」

ぶち、と何かが切れるのを感じながら、俺はそいつをソファに押し倒す。
一瞬びっくりしたような目で俺を見たそいつは、笑って俺の耳に囁いた。
「お前に会いたいって思ってたらさー、傘さすの忘れてたんだよね」
ああ、さようなら、平穏な日曜日。俺はこれからこの愛すべきバカととても背徳的なことをします。