戦闘用アンドロイド×セクサロイド

調整のためにケーブルに繋がれている自分の前にやってきたのは研究者に付き従っているいつものセクサロイド。
自分が施設にいるわずかな時間のうちでもたまにしかみることがなかったが、記憶に残っている。
「人を殺すことってツライ?」 
少年のあどけなさを残した「美しい」微笑みのまま言った。
「…考えたことはない。それが俺の機能の全てだから」
「そう」 
彼の微笑みはそのまま。プログラムに照らし合わせて「美しい」と思うが、何か違う気がした。
「幸せって知ってる?」
「知っている。心の充足を得ることだ」
「君の幸せは何?」
「………」
応えることはできなかった。
「僕の幸せは、人に愛されること」
言って彼は微笑んだ。

「ならば、お前は幸せなのだろうな」
側にいてくれる人がいる。大切にされている。人に悦びを与える。なんて充足された役目だろうか。
「そう思う?でも僕はツライんだ」彼は続けた。微笑んだまま。
「僕たちは、人の感情が読めるんだ。そういうセンサーが付いてる。表情とか、声の調子とかで。君の戦況把握のための特化した知覚力みたいなもの」
「……」 
「誰も僕をみてくれない。誰も僕を顧みない」
「…悪いが、俺にはわからない。与えられた役目以外のことを考えることは苦手だ」
彼は笑った。それは自分が見る初めての、本当の微笑みだった。なぜか、そう思った。
「君は優しい人だね」
「優しい?」
「君だけなんだ。僕自身を見てくれていたのは。そして、こんな変なことを言う僕に対して『すまない』って思ってくれてる」
「…よくわからない」
「いいんだ、わからなくても。分からない方が、幸せかもしれない」
唇に彼の唇が触れた。
「知ってる?さよならの時はキスするんだ」
彼は笑った。本当に生き生きした笑顔で。
「君の無事を祈ってるよ」

その後、彼を見ることは無かった。不良品だから処分されたのだと、後で聞いた。
この自分の中に生まれた慟哭は、いったい何なのだろうか。
これが、遺伝子の中に組み込まれた本能なのだろうか。
理解できない。だが、自分のするべき事はたった一つ。
「お前を、忘れたりはしない。俺が死ぬまでだ」
自分の唇に触れて呟いた。



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最終更新:2009年04月04日 17:12