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鼻歌

1出会い
団長が連れてきた新しいシナリオ書き、それがカキだった。
うっとうしい前髪の下と眼鏡の下に隠された顔は別に美形なんかじゃなく、
神経質そうな目が光っているだけ。なんか怖い奴だなあ、というのがモモのカキに対する第一印象。
あ、百田だからモモで、垣根だからカキね。のちのちホモなのに果物とか言われるんだけど。
その後、カキの書いてくれた台本を見てびっくりするわけだが。
え、こいつこんなにめろめろのどろどろ書いちゃうの、なんて。
なんか哲学系とかパラドックスとかもっと他にもあるじゃん、カキに似合う系。
気になったら行動。俺のポリシー。

「メロメロでどろどろ、好きなんだ?」
劇団の事務所(っていっても、団長の家なんだけど)で、何やら書いているカキの前に座って聞いてみる。
「ああ」
目線もくれないできっぱり答えが返ってくる。
「おれも結構好きよ」
にこにこ、にこにこ、音がしそうなほどの笑顔でモモはカキが顔を上げてくれるのを待った。
が、カキはノーリアクション。全くの無反応。
結構長い時間がたったあと、モモの携帯が無情にも稽古の時間を告げた。
「じゃ、またね!練習見に来てね!」
にこにこしたまま、立ち上がるとなぜかカキも立ち上がる。
「へ?」
すたすたと自分より先に事務所を出て行こうとするカキに驚いて、モモはあわてて追いかける。
「どしたの?、どこいくの?」
事務所に施錠して、靴をつっかけたままのモモはエレベーターホールでカキに追いついた。
「お前らの練習を見に行くんだ」
「なんだ、じゃ、一緒に行こう!」
また思いっきり無視されるかと思ったら、無言だけど一緒に歩調を合わせてくれている。
なんだか嬉しいなあ、うれしい、心からにこにこしちゃう。
外は俺の心を映したような五月晴れ、風が気持ちいー。

「おい、鼻歌をやめるか小さくしろ。人が見ている」
「あ、ごめん。オレの癖なんだ、きもちいいとすぐ鼻歌歌っちゃうんだよなあ」

2 結果というか
一年前、劇団を主宰している知人にブリッジ土下座という曲芸を見せらて、しぶしぶ台本書きを引き受けた。
好きなように書いていいといわれたから、劇団員の写真も見ずに好み丸出しの台本を書いた。
対した興味も無く、何となく見に行った劇団の稽古は良い意味で衝撃的だった。
ブリッジ土下座野郎は、もともと高慢で狡猾な家長であったかのような演技をし、
メールを打ちながらマニキュアを塗るという曲芸を見せてくれたギャルも、悲劇の娘になりきっていた。
何より驚いたのは、稽古場に着くまで俺にまとわりついていた鼻歌男が
見事に正義から転落し虚飾にまみれて生きる青年実業家を演じきっていたことだ。
落差は人を虜にする。
俺はそれから本業の職業ライターと同じくらい、いやそれより力を入れて台本を書き下ろした。
劇団のメンバーはその都度、見事に違う顔を見せてくれた。
しかしやはりというか、素性は全く変わることはなく、ブリッジ土下座は新しく三点倒立お辞儀を見せてくれたし、ギャルは携帯でしゃべりながらマスカラを塗っている。
そして。

「鼻歌を止めろ、頭に響く」
蒸し暑い空気が籠ったシーツの中で、何が可笑しいのかモモはくぐもった声で笑う。
「やーだ、だっておれすっごい機嫌良いんだもん、とめらんない」
言いながら、モモは掛け布団ごとカキにのしかかる。
「うわ、おい、やめないか!」
暗闇のなかモモの体と掛け布団に包み込まれ、カキは混乱する。
訳のわからない中、ただ機嫌のよさそうなモモの鼻歌だけはしっかりと聞こえていた。
「まさか、カキさんとヤれるなんて俺ってちょう幸せ!」
そう、なぜかこんなことになってしまっているのだ。

「俺、カキさんすきだなー」
何時かのように、劇団の事務所で向かい合ってモモと座り、一方的な彼のおしゃべりを聞くともなしに聞いていた俺は、
不意のその言葉を彼なりのジョークだと受け取った。
「ああ、俺もモモが好きだぞ」
すっと目線を上げて、ジョーク返しをしたつもりだったのだが。
なんだ、その顔は、うわ、引っ張るな、椅子が倒れる、って寝室に向かっているのか?鼻歌歌ってものすごくご機嫌だな?
ベッドに放り投げられる、顔面から着地して眼鏡が厭な音を立て、混乱しているうちに鼻歌が近づいてきて、…暗転