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印象的な人

極寒の地にある統制国家の若き兵隊だった俺は、何も信じちゃいなかった。飢えをしのぐためだけに軍に入ったからだ。
だから、飢えと寒さと貧困に喘ぐ市民が暴動を起こす度、自分の食糧を守るため迷いもなく容赦なく叩き伏せ検挙し統制を守った。
あの日、彼に会うまでは。

暴動の最中に霰混じりの嵐が広場を襲った。
市民も憲兵も混乱し、踏みつぶされる者やトーチで火傷するものの叫び声が響き
寒さで麻痺しかけた嗅覚に蛋白質の焦げる嫌なにおいが僅かに届く。
そのうち視界がホワイトアウトする程の嵐になった。
建物の陰を何とか探り当てた若い憲兵は、そこに先客がいることを認めるや否や銃を構えた。
「動くな!」
叫んだはずの声は嵐の白に吸い込まれ、相手に届かなかったようだが、このまま雪礫に晒されては命の危険すらある。
物影の先客は特に身構えたり銃器を構えてはいないようだったので、憲兵は肚を決めて身を滑り込ませた。

暴風から逃れることが出来、さらに先客の気配のたまった狭い空間は暖かかった。
吹き荒れる風の轟音も和らぎ耳も正常に働くようになったため、憲兵は振り向きもしない先客に話しかける。
「おい、お前は何者だ。見たところ過激派でも兵でもないようだが…」
その声に振り向いた先客の容姿は、全ての予想を裏切っていた。
外套と防寒帽に埋もれてはいたが、漆黒の瞳と髪を持つ東国の人物だったのだ。
彼は憲兵に向きなおり、まっすぐに目を見据える。
その姿が、彼と僅かな遮蔽物以外が白に沈んだ世界に。
焼きついた。

人にまっすぐ見詰められたのは何年ぶりだ?軍に入る前も、大人は何も見ておらず子供は地面ばかり見ていた。
なぜ何も問わないんだ?動かないんだ?ここは戦場だぞ?
見ないでくれ、目をそらしてくれ、見るな、みるな!!!
「この国は、もう駄目かも知れないね。君みたいな若い人がヒトの目をまっすぐ見られないなんて」

その先客が東の国を率いる十年前。
東の国から後押しされて、その憲兵が革命を起こす十と二年前。

この出会いから、歴史は動き出す。