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妄想癖

「見渡す限り夏草の生い茂る静かな池のほとり、
君は一本の樫の木に背を凭せ掛けながら眼を閉じてただ僕を待っている」
「おい」

「青々とした葉を備えた樫の枝はキツイ陽射しから君を守るように心地よい木陰をつくるけど、
それでも葉と葉の間からはいくつかの陽光が細く差していて、君のすっきりとした曲線を描く頬や
だらしなく開かれたシャツから覗く首筋には斑な光が落ちている。」
「おい、」

「待ち合わせの時間に少しばかり遅れたことに罪悪感を感じながら、
ようやくほとりに辿り着いた僕はその光景に数十秒ぐらい息を呑むことになる。
そうして君に降りかかる陽射しになんだか無性に我慢ならなくなって、
薄くひらかれた君の口に堪らずむしゃぶりついてしまうんだな」

「うおーーい、なんで俺が」
「うるさいな、たかが妄想なんだから好き勝手させてくれ」

「んじゃ言わせてもらうけどな、わざわざその妄想を口に出す必要がどこにあるよ。
お前が黙って一人で愉しむ分には俺だって俺の肖像権を主張したりしねえよ」
「黙ってニヤニヤしてたって君にアプローチ出来るとは思えない、それにそんな事してたら
まるで僕が変態みたいじゃないか」
「自覚ねえのか!」
「君を好きだって自覚はもう確かめようが無いぐらい確かにある」
「論点を摩り替えるな」
「ごめん、でも願望めいた妄想が思わず口をついて出てしまうぐらい君のことが好きなんだ」
「俺には生まれた時から傍に居る幼馴染の小憎ったらしい、でも大切な女が居るんだ」
「知ってる、悪いと思ってるよ」
「アンタのことは人間として好きだし、この先も長く付き合っていけたら良いなと思ってる。
でもそういう対象にはなれん」
「断固として?」
「断固として。」
「悪かった、忘れてくれ」
「なんでそんな顔するんだ、俺が悪いことしてるみたいじゃねえか!」
「君は悪くない。君の髪の毛一本分も悪くないよ」
「なんだなんだなんだ、なんでそんなしおらしいんだ!」
「はははは」

「なあ、俺は男だし、減るもんじゃねえし、アンタとの仲が拗れる位なら
チューのひとつやふたつぐらいお見舞いされても構わねえんだ」
「残念ながら僕としてはチューのひとつやふたつで済ます気はないんだ」
「泣いてもいいか?」
「冗談だよ」
「どうすりゃいい、ケツでも差し出せってのか」
「とんだ博愛と自己犠牲精神だな、涙が出てくる」
「……」
「何もしなくて良い」
「……」
「時々会って今みたいに憎まれ口を叩いてくれるだけで良い。
セックスやキスなんかしなくたって、君と共有できるものさえあれば僕は十分気持ちが良い」

「…アンタって変態だけどほんとにいい奴だな」
「良く言われる」
「しょうがねえから俺の肖像権アンタにだけ放棄してやる」
「それは、ありがとう」
「ほんとごめんな」
「妄想は叶わないし実現しないから妄想でいられる訳だ」

「悪い癖だ」
「全くだね」