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裏切り者の烙印を押されても

薄暗い牢獄に、靴音と叫び声が入り交じる。
ランタンの光も届かないその片隅で、ひとりの青年を抱き込み庇うようにひとりの男が蹲っていた。
銀色の冴えた光に似つかわしくない鮮血を纏わせる剣が、傍らに投げ捨てられている。

立派なのは文言だけで、民衆の声を聞き入れない王政を覆そうと反乱軍の先鋒を切り城内に侵入したはいいが、
もう何十回目の争いに耐え抜いただけあり内部は要塞の如く複雑に入り組んでいた。
農園のようにベリーの木々が生い茂るこの庭を突っ切るとしても時間の浪費は避けられないなと、
喉元で小さな笑い声を漏らした男は、淡い水色の髪を揺らし空を見上げた。
「…ラグズ?」
苦悩と困惑を色濃く表した声に、反射的に右手に握っていた愛剣を相手の方へ突き出す。
一本の直線を描いた切っ先は彼の金の髪を数本散らし、頬を掠めて一筋の傷痕を残した。
「んっと、ラグズだよ…ね?」
「…、………を、俺の名を何故知っている」
「覚えてない?隣の家に預けられてた…ダエグって少年を」
叫び声を上げそうになり、思わず少年…いや、ダエグ王子に唇で口を塞がれていた。
恋愛未満であったとしても、隣人の彼と過ごした時間は今でも男の中に燦然と蘇る。
手を離れる時が来たんだと預かり主の老夫婦から聞いた晩は、彼と別れの酒を酌み交わそうと年上らしく提案したものの、
朦朧とした意識の中にあるのは彼を掻き抱いて泣く己の姿と、背伸びをして何度も髪を撫でる彼の潤んだ笑顔だった。
気付かないうちに曖昧にはぐらかしてきた関係を悔やんでも悔やみきれず、その後戦いに身を投じた結果が、
身分の明かされた彼との―しかも反乱軍の有力人物と王子となった互いの再会の場だと、誰が予測できただろう。
「とびきり大きく育つぞってもらった鉢植え、覚えてるかな…ここの庭の、全部あれから株分けしたんだよ。
…のんびり話すのは、もうちょっと後かな。僕も頑張ったんだけどね…」
と、理知そうな顔を少し切なげに歪めて彼は片手を差し出す。
僅かに躊躇いを見せて、男は、一呼吸置いてから、彼の荘厳かつきらびやかな正装を剥ぎ取り投げ捨てた。
が、簡素な下着姿になった彼に己の外套を羽織らせて、自分の中折れ帽を深く被せる。
「…本当にいいのか。逃げても」
「茂みを抜けると地下牢への抜け道に辿り着けるんだ。そしたら多分、見つからないよ」



「いたぞ!…ラグズ?それに…ダエグ王子?…まさか―」

『裏切り者の烙印を押されても、君との永久が欲しい』