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全身タイツ

「……何してるんだお前は」
馬鹿だ。
こいつは本当に馬鹿だ。
開いた口が塞がらない、というのはこのことを言うのだろう。
彼のその姿に、頭の中を必死に整理しようと努力したが、
言葉らしい言葉は紡げずに、ただただあ然と玄関に立ち尽くすだけだった。
「これ、可愛いでしょ? 飲み会のビンゴで当たっちゃった」
そう言って彼は、純粋無垢な笑顔を浮かべた。
……やっぱりこいつは本当に馬鹿だ。
眩暈で倒れそうになる身体を壁に手をつくことで何とか耐え、やっとのことで声を絞り出した。
「……何で、今ここで着ているんだ」
「えー、だって会社の皆も、この格好可愛いって言ってくれたんすよ?」
「……」
全身真っ黒のタイツを身に纏っている奴のどこが「可愛い」というのか。
しかも、身体のラインが強調された妙に生々しい格好は、“変態”以外の何者でもない。
「だからあんたに見せたら喜ぶかなーって。」
「誰が!」
「またまたー」
目の前がふと暗くなったと思ったら、彼が傍に立ちこちらを見下ろしていた。
近づく瞳には不穏の色が混ざっている。
「お、おい……っ?」
危険を察知し逃げようと身体を引いても、壁に邪魔されそれは適わなかった。
壁に追い詰められた形となった自分に、彼が覆いかぶさる。
「可愛いでしょ……?」
「馬鹿! お前何を――」
その後の言葉は、彼の唇でもって封じ込まれた。
口腔を蹂躙され、彼の手によって器用にネクタイが解かれていく。
素肌に辿りついた彼の手は、好き勝手に動き回っては追い上げる。
「ん……ッ」
舌で上顎を舐められ乳首を手で撫で上げられる事によって湧き上がる甘い痺れに
耐えようとするも、早くなる呼吸はどうしようもなかった。
真っ白になっていく頭の中で、懸命に今現在の己の状況判断を試みる
自分は疲れて帰ってきて、部屋には恋人が待っていて、そして今
その奇妙な格好をした恋人に自分は襲われていて――
……ちょっと待て、それって視覚的に非常に滑稽ではないか!?
「……んの、馬鹿!」
うめき声のあと、一瞬の静寂。
膝蹴りを見事に喰らいみぞおちを抱えている彼をよそに、
呼吸を整えながらはだけたシャツのボタンを急いでとめた。
「ちょ、容赦無い……」
「馬鹿な事すっからだ」
「たまにはこういうのも刺激的かなって……」
うずくまる彼の瞳には涙さえ浮かんでいる。蹴りがよほど効いたのだろう。
そんな彼を横目に見ながら、踵を返して部屋の奥へと向かった。
「早くそれ脱げ」
馬鹿だ。
こいつは本当に馬鹿だ。
――そして、こいつに惚れた俺も相当の馬鹿だ。
寝室のドアの前で立ち止まって振り返る。
未だ痛がっている様子の恋人に、思わず笑みを零しながら。
「早くそれ脱げって。……さっきの続きが出来んだろ」

その後、彼がもの凄い勢いで着替えて、寝室へ追いかけてきたのは言うまでも無い。