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いたずら電話

ここ最近、シュウがワン切りを仕掛けてくる。元々悪戯好きで、ターゲットになることは多かった。
多かったけれど、10回連続ワン切りのみという馬鹿みたいなことはしたことはなかった。
もしかしたら何か聞いて欲しいことがあるのか、と尋ねてみたが、「そんなのねーよ死ね」と散々なことを言われてしまった。
「(何もない、わけじゃ、ないと思うんだけど)」
夕食を終えて、食器を洗いながら思う。いつも俺を見かけるたび、くすぐるなり突然大声を近くで発してみたりするのに、それもなし。
講義の途中で隣に来て、何かしかけてくるかと思いきやまじめにノートを取るか眠るだけ。
最初は何をたくらんでいるんだ、と思ったけれど、だんだんとそれが心配に変わってきた。
悪戯されないならされないなりに喜べばいいのに、心配になってしまうあたり、俺がお人よしと呼ばれるゆえんなんだろうか。
次はワン切りを成功させないように、尻ポケットに携帯は入れてある。……既に3回、阻止に失敗してはいるけれど。

食器洗いを終えて、近くにあったタオルで手を拭き、携帯を取り出すとグッドタイミング。ちょうどよく震え、俺はすかさず通話ボタンを押した。
「切るなよ!」
即切られたらたまらないと思い、すかさず大声を出す。すると珍しく素直に言うことを聞いてくれたらしく、通話は続行された。
しかし何も言葉を発さない。死ねもなければ馬鹿もない。
「あのさ、シュウ。本当に何もないわけ?」
「…」
「悪戯しなくなったのかな、と思いきや、そういうわけでもないし。でもほかに何かするわけでもない」
「…」
「何かあったなら、言えよ。聞くくらいなら出来るし」
「…お人よし」
「は?」
「お前がお人よしすぎるせいで俺が俺らしくなくなって、本当馬鹿みてえ」
相変わらず乱暴な言葉遣いだけれど、声はなぜか弱気だった。
心なしか涙混じりな気がして、声をかけようと思うが、口を噤む。まだ彼の言葉は終わってない。
「最初は反応面白くて悪戯してて、マジで嫌がられたらやめようと思ったのに。お前、なぜか笑って許すし」
「別に、たいしたことじゃないし」
「…そういうとこがムカつく」
どこか拗ねたような、そんな幼い口調に思わずくちびるが緩む。
「可愛いな」
「は?!」
「え?」
「なに、お前、かわいいとか、馬鹿?」
どうやら、無意識に漏らしていたらしい。しまった、と思いながら口元を押さえる。直接の会話じゃなくてよかった。
きっと電波のむこうでシュウも思っていることだろう。毒を吐きながらも、声色から照れが消えていない。
少し沈黙があって、再びシュウが話し出す。
「やめようと思ったんだよ、ケンくんとかにも、そろそろ可哀想だからやめてやれよ、って言われたし」
「うん」
「…最初はやめてやるもんか、って思ったんだけど。確かに、まあ、ちょっとやりすぎかなって思って」
「…うん」
「でも。俺、こういう悪戯やめて、お前との接点がなくなるのが、その。……こわくて」
いつもの彼らしくない、弱気な物言いに少しばかり驚く。
うう、だの、ああ、だの、言葉を選ぶような唸り声が聞こえる。
「だから、こういうちょっとした悪戯だけでも、って。…迷惑だったら、ごめん」
「いや。迷惑ではないよ。お前、時間帯考えてやってただろ?」
笑いながらいうと、う、と声が聞こえる。俺が寝ている時間帯に着信履歴が残ることはなかった。
バイトの間もなかった。あったのは、暇しているときだけ。妙に律儀な悪戯のやり方に、なんともらしいと思ったものだ。
「で、なんで接点なくなるのが怖かったの?」
大体察しはついてる。そういう趣味だって話も聞いてる。
一応俺はノーマルなのだけれども、恥ずかしがるコイツを見たい、そういう声を聞きたいと思うのは…やっぱり、足を踏み入れてる、ってことなんだろう。
向こう側で、シュウがまた唸る。恥ずかしくて仕方ないらしい。俺の機嫌は更に良くなる。
「…………好きなんだ、お前のこと」
顔を真っ赤にして、目線を逸らしながら。なんとなく、言っている光景が想像ついて。
俺もだよ、と返したら、いったいどんな反応がくるだろう? 俺はそんなことを思いながら、ゆっくりと唇を開いた。