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紙の花

むかし俺の家に泊まりに来た須藤と見たドラマに
『私は一生枯れない花以外はいらないの』というセリフがあった。
当時まだ小学1~2年だった俺はセリフの本質も理解できずに
なんかロマンチックだなー、とぼんやり思っていたような気がする。
今から思えばあのセリフは完全に、冷めゆく愛を見透かした
ヒロインからの"別れのセリフ"で、ロマンチックというよりは
シビアでドロドロしたものだったのかもしれない。

たしかそのセリフを聞いたあと俺は
すぐ須藤に『俺も枯れない花が欲しい!』とねだり、
ロマンチックやファンタジーという言葉からは程遠いあいつは
『そんな花あるわけねーじゃん』という夢も希望もない言葉でバッサリ切り捨てた。
当時ものすごく泣き虫君だった俺はその言葉でまた泣かされて
冷酷非情に見えて案外気を使うタイプのあいつは地味にオロオロしてた憶えがある。

翌朝須藤は、紙で作った大量の花をバサッと俺に投げかけて
『これなら一生枯れないだろ』と困ったような顔で言い放った。
須藤の目元には濃いクマができていて、俺が眠ったあと
一人で黙々と紙の花を作り続けたというのが丸わかりだった。
突然の出来事にビックリして少しの間固まっていた俺は
沢山の花を見て何だかまたもや泣きたい気分になった。

紙の花にまみれて、音もなくボロボロ泣く俺を見た須藤は
何を勘違いしたのか"しまった失敗した!"というような顔をして
『それで駄目なら本物の花やるよ、枯れる度にオレが新しいの持ってきてやる!』
と、もはや趣旨と違ってきている微妙な案を提出した。
なんか妙にこそばゆいが、その時いわゆる嬉し泣きをしていた俺は
嗚咽で上手く発音できないまま、たしか『この花が一番嬉しい』とか
そんな感じの返事をしたんじゃなかったかなーと思う。

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「おい高梨、飯できたぞ。」
「ん?」
昔と比べるとだいぶ低くなった須藤の声で、俺は記憶の世界から帰還した。
「はーい、今行きまーす!今日の献立なにー?」
須藤の作る美味い飯は、食べるのが大好きな俺にとって
一日の中で最高の楽しみといっても過言ではなく。
この時ばかりは全てを放り投げてでもキッチンに突撃してしまう。

「竜田揚げ、なめこの味噌汁、ほうれん草の御浸し、冷奴、炊き込みご飯、以上。」
「よっしゃー!俺炊き込みご飯大好き!」
須藤が淡々と本日のメニューを読み上げる度、俺のテンションはじわじわと上がっていく。
さっきまで"あのドラマ"の再放送を映しだしていたテレビを消してキッチンへと走る。

食べ終わったら須藤に、あの紙の花まだ折れるのか聞いてみようと思った。