結婚適齢期

三島はおおげさに目をむいた。
「クリスマスケーキ?売れなくなる?冗談じゃない。
 就職したてだよ?俺ら。仕事覚えて、合コンいっぱいして、経験つまないと。
 いったいいつの時代の話だよ、今時三十過ぎてからが当たり前でしょ?
 それより北総合病院の看護師さんたちがさぁ……今度新薬説明会やるから、その次セッティングね、お前がね」

三島はいきなり怒り出した。
「もう、とか言うなよ、まだ、三十じゃん。
 俺はね、もっと、なんつーか、人生考えたいのよ。
 そりゃヒナノちゃんは可愛いよ、でも結婚となるとね……あの子料理ダメなんだよな。
 出会いだけはアクティブに考えてるよ!ヒナノちゃんもその気ないと思うし……」

三島はため息をついた。
「お前なぁ、酒がまずくなるっつーの。
 男の四十はまだまだ適齢期だって。病院の加藤先生、あの人もこの間四十三で若い嫁さんもらったろ?
 いーんだって!俺、これでもまだもてるし。
 彼女?……は今はいないんだけどさ、じゃなきゃお前と呑んでないし」

三島は笑い飛ばした。
「え?何、いきなりそういうこと言うか。
 お前ね、俺の年考えろや。五十のおっさんのところに嫁に来てくれる女の子はないでしょ、ありえないでしょ。
 そうだな、バツイチ子持ちの看護師さんはいっぱい見るけどね、なんかもう輝いちゃってるのよ、みんな。
 子どもと仕事にテキパキ頑張ってる姿みるとね、純粋に応援したくなる、もう。
 俺も枯れちゃったかな」

「結婚かぁ……そういう年ではなくなったね。いろいろあったけど、お前とは楽だね、独身同士でね。
 子供とかもうめんどくさいもんな、可愛いとは思うけどね」
退職を間近に控え、目尻に皺が寄るようになった三島は、最近俺に優しい。
「そういや聞いたことなかったな」
「何を?」
想像はつくが、訊いてやる。だって、初めてだ。聞きたい。
「お前はなんで結婚しなかったの」
俺は笑った。
「もともと願望がなかったから」
「うそつけ。お持ち帰り多かったじゃん、お前はもてたからな」
「悪いことしたよ。本当に好きな奴は別だったんだけど、鬱憤晴らしに遊んでた」
「ほんとか、お前がそんな悪い奴だったとはね。お前の好きな子なんて、大学以来初めて聞いたぞ」
「その大学からずっと好きな奴がいたんだけど、無理な相手で……そいつが結婚したら結婚しようって思ってた。
 そしたらこうなった」
三島は笑った。
「なんだそれ、じゃ、相手フリーなんだよな。今なら落とせるでしょ。
 相手いくつか知らないけど、もう誰でもいい状態じゃね?独り身ってのが堪える年よ?
 ある意味適齢期だよ?俺なんか、もうほんと誰でもいいから、誰かと暮らしたいって思う時あるもん」
俺は笑えなかった。考え込んだからだ。
……ひょっとしたら、長い時間を経て、今、俺達は適齢期なのかもしれない。



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最終更新:2013年08月03日 02:18