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私を許さないで

彼に告げていないことがある。
私が彼を養子として引き取ったときから、私はできる限り彼に隠し事をしないようつとめてきた。
彼の父親の古くからの知人を名乗る私に、
身寄りのなくなった彼は文句もいわずについてきてくれた。
当時の私はとにかく彼に信頼される養父であろうと努力したし、
彼もまたそんな私を父と呼んでくれるようになった。
あのときから私の胸には言い表せないほどのあたたかな温もりと、
どうしようもないほどの罪悪感を感じるようになったのだ。
年を経て、彼が彼の父親に酷似してくるにつれて、その気持ちは強くなる。
思えば、彼の父親との関係を詳しくたずねられたことはなかった。
それは見知らぬ男を養父とした彼なりの遠慮だったのかもしれないが、
私も自らすすんで話すことはなく、結局何も告げないまま月日が経ってしまったのだ。
もし心の内をありのままに話していたならば、彼は私を軽蔑し、
私を父と呼ぶことなく去ったことだろう。
あの頃と現在では、私たちのあいだに大きな違いがある。
いまならば、全てを話しても彼は笑って受け入れてくれるかもしれない。
だが……そう、それはできない。
惜しかったのだ。いや、正直にいおう。いまでさえ惜しい。
これは私の未練である。
私は彼の笑顔と、彼の声に、贖罪と断罪を感じながら生きていくのだ。
心の内を彼に告げることはない。
これは私が私に与える罰なのだから。