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強くてニューゲーム

「〝つよくてニューゲーム〟って知ってる?」
「知らね」

いつもの通学路。草臥れた黒い学生服の背を追いかけながら僕が問い掛けると
藤沢はやはりいつものように、面倒くさそうな声音で気のない返事をした。

「えー、ゲームのシステムだよ。藤くんもやったことない?
一度クリアした後、レベルとか持ち物とかそのまま引き継いで
もう一回最初からプレイできるの」
「んなつまんねーゲームやんねぇよ」

つまんないかなぁと僕が呟くと、藤沢はこちらを振り返りながら言う。

「こっちは強くなってんのに弱い敵と再戦すんだろ?そんなんつまんね」
「はは、藤くんはそういうの好きじゃないか。結構楽しいと思うんだけど」

例えばすごく苦労した敵を一撃必殺で一掃すると意趣返しみたいで気分がいいよ。
そう言うと、藤沢は眉を潜めて僕を悪趣味だと詰った。

「藤くんひどーい。ねぇ、だって例えばさ
、小学生の僕と勝負できるならやってみたいと思わない?」
「弱いお前とやったってつまらねーだろーが」

呆れたように言いながら、藤沢は肩に担いだ竹刀袋を負い直した。
藤沢はずるい。今だって僕よりずっとずっと強い癖にそんな言い方をする。
僕は藤沢に一度だって勝てたことがないのに。

藤沢はいつだって正々堂々を好む。
皮肉屋で冷たいことばかり言うのに剣道に対しては驚くほど真摯で
理に叶わないことを決して潔しとしない。
それはずっと隣で竹刀を振るってきた僕が、一番よく知っている。

何時の間にか二つの影がは隣に並んでいて
藤沢の高い背で遮られていた夕日の紅が
一直線に差してくるのが目に痛い。

僕が小学校入学を機に剣道教室に入門してから中学三年生の今日まで
僕はいつだって藤沢の背中を追いかけてきた。
入門したばかりの僕は藤沢の剣に魅了され
彼に勝つことを目標に励んできた。
それがついに叶わぬまま、今日という日を迎えてしまったことを思うと
藤沢と同じように背負った竹刀がずっしりと肩にのし掛かってくる感じがした。

「…まさかアメリカなんてね。ジャパニーズサムライ!とか人気者になれるんじゃない?」
「剣道はあっちでもメジャーだぞ。今更珍しくもねーだろ」
「分かってるけどさー、藤くん日本男児って雰囲気だし。
人気者になって、そのままアメリカに定住しちゃわないでよ」
「親父の仕事で仕方なく行くだけだ。高校出たらこっち戻れんだろ」
「…そうだね」

絶対戻ってきてよ。
言おうとして、止めた。結局僕は今日までずっと、藤沢を追っているだけだった。
最後の最後、卒業試合の帰り道に追い縋るような言葉をかけるのは
その事実を強く突き付けられる気がして辛い。

ラストです、ぶつ切りになってしまってすみません



つよくてニューゲーム。
もしもそんなことが出来るならどんなに良いだろう。
僕は藤沢ともっと戦い続けたかった。
出来ることならこの男を倒したかった。
藤沢に勝てるくらいの実力を積んで、隣に並びたかった。
でも例えば小学生の藤沢とまみえたとして
僕は彼を倒そうとするのだろうか。
その問いに意味は無い。つよくてニューゲームが出来るのは
ゲームをクリアしたプレイヤーだけ。
一度も藤沢を倒せなかった僕は、ニューゲームの資格すらない。

「腰越」

藤沢が僕を呼んだ。
ねぇ、僕は君に憧れて、君が好きになって、君に近づきたくて
だからいつだって君と同じ場所で君を目指し強くなろうとしてきたけど

「…必ず戻る、もっと強くなって。そしたらまたお前と戦いてえ」

これからは君がいない場所で、僕は僕なりに強くなるよ

「うん。その時は僕、藤くんがびっくりするくらい強くなってるよ。
一撃必殺されないように気をつけてよね」

ニューゲームじゃなくこの同じ世界で
いつか君と肩を並べることが出来るように