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寝正月

ドッという笑い声が聴こえて目が覚めた。
寝起きには見慣れない、しかし馴染みある天井に、ひとつまばたき。
上体を起こす。なるほど居間である。
首をぐるりと回して天板の上の眼鏡を取る。
昨日、僕はどうやらあのまま寝てしまったらしい。
溜め息と共に炬燵の中で無造作に動かした足がふわついた何かに当たって、息も動きも止まる。
布団をめくり、中に向かって声をかける。
「……教授、あけましておめでとう」
"教授"は気を悪くした素振りもなく、僕の脚にいちど頭を擦り付けた。
「お、起きたかー………ってなにやってんのお前」
「新年のご挨拶だ」
襖を開けて入って来たのは、昨夜何の前触れも無しに押し掛けて来たアホである。あー、と生温い合点の声がしたかと思えば、向かいの布団がばさりと開いた。膝をついて炬燵を覗き込む奴が見える。
「ねこすけー、あけましておめでとさーん」
「教授だ」
「そうだっけ。お前も、あけましておめでとう。雑煮食うっしょ?」
流れる様なたずねっぷりに、ああと思わず頷きそうになってはたと止まる。
こちらを見つめる奴の視線を布団でシャットアウトし、頭を抱えた。
「…雑煮ってお前、作ったのか」
「一応な。出来合い詰めただけだがおせちもあるぞ」
「人の家で何を…」
「筑前煮もあるし」
「…………」
「うまい酒もあるぞ?」
「駄目だ、これは駄目な流れだ……」
「何がだよ。食べるだろ?」
「……ああ、いただくよ。」
諦めよう。
正月休みだからってだらける予定は無かったのだけれど、昨日こいつが来た時点で、僕の秩序立った日常は破壊されたのだ。起きたのが昼過ぎという時点でもういけない。
しかし始末が悪いのは、僕自身、こいつに流されるのがそう嫌ではないという事だろう。

せめてもの抵抗とばかりにお笑い番組をニュース番組に変える。
僕の抵抗はいつでもささやかである。