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ハッピーエンドが怖い

冬の文芸部の部室はとても静かだ。
他の部員はとっくに帰って、向かいの席に座る菊池がシャーペンで原稿用紙を叩く、とんとんという音だけが聴こえる。

我が文芸部では、毎年冬に出す部誌での企画として、クジを引いて同じ番号だった相手と合作小説を書く。
そして俺は全く話したことのない菊池と合作を書いているのだが…

合作を書いている間も、俺は菊池と話さない。ただ原稿用紙の空白に「ここの展開どう思う?」とか「ここ伏線?」とか「食事シーン書くと腹減るよね」とか。
原稿用紙の隅に書かれた筆圧の薄い綺麗な字を見るたびに俺は。

部室を漁って読み耽った菊池の作品はどれもハッピーエンドだった。
今菊池が書いている最終章もきっと、ハッピーエンドなのだろう。

でも俺は、原稿用紙のあの字を、向かいの席に座って原稿用紙をじっと見つめる伏せた目にかかる前髪を、俺が担当した章を読んで少しだけ笑う顔も、見られなくなると思うと。

小説がハッピーエンドを迎える事がどうしようもなく怖いのだった。