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お坊ちゃん×幼馴染の使用人

幼い頃、父には彼の父親があてがわれたように、僕には彼が専属の使用人として当たり前のようにあてがわれた。
普通とはかけ離れた環境で、年の近い僕たちは互いを唯一の友とした。
時には共に料理をつまみ食いし、時には共に屋敷を駆けまわり、
それぞれの父親に「あまり仲良くしすぎるな」という同じ文句で怒られる仲だった。

「よし、これでうるさい奴らはいなくなった!
 せっかく父さんがいないんだ。何をする? 昔みたいにキッチンに忍び込むか?」
「……坊っちゃん、頭が痛いんじゃなかったんですか」
「そんなの、嘘に決まっているだろう」
「そこまでして、社交場に行きたくないんですか……」
そう言って、彼は深くため息をついた。
教育の結果、彼は自分の立場とやらを強く刷り込まれてしまったようで、もう僕と遊ぶことをしなくなった。
「旦那様には仮病のことは黙っておきますから、せめて大人しくしていてください。」
「僕一人怒られるならいいだろう? お前には無理を言ってつきあわせたことにする」
「今の私はあなたのお目付け役も兼ねているんです。務めを果たせなければ、私は家を出されてしまいます」
昔、彼は自分のことを“私”じゃなくて、同じように“僕”と呼んでいた。
そんなところも変わってしまった。説教はまだ続いている。

「あなたも、もうそろそろ自分の足場を固めなければならない頃です。
 旦那様と一緒に社交場に行くのもあなたにとって大切なことですよ」
「お前がいないからつまらない。お前も行くなら一緒に行くよ」
「あそこは私なんかが入れるような場所じゃありません。もう、わかっているはずです。
 子供の頃のまま、一緒にいられるわけではないんです」
僕は、自分の思い通りにならない彼にいらだっていた。
「私なんかが、なんて言うな! 僕たちはそんなんじゃないだろう。
 それと、自分のことは私じゃなくて僕って言え、これは命令だ!」
「――――かしこまりました。ご主人様」

その言葉を聞くまで、僕は自分のしでかした間違いにまるで気づいていなかった。
彼はただ、深い諦めの、それでもどこかすっきりした表情で僕を見ている。
自然と涙がこぼれた。彼のまとう空気が一瞬惑ったが、すぐに引きしまったものに変わった。
「これ、僕のハンカチですが」
「そんなのはいい。……今はもう、何も言うな」
差し出された慰めを拒んで命じる。
「そばにこい」
指先で招くとその距離は何よりも近くなった。
「じっとしていろ」
そう言い置いて彼を抱き寄せる。そして、静かに泣いた。
僕がどうしようと彼はもう惑いを見せない。そうなるよう、背中を押してしまったのは僕だ。
濡れた肩口に彼が何を思っているかなんて、僕にはもうわからない。

お前はずっと、僕の友達でいろ。
何よりも願いたいこと。それを言う権利はさっき自分自身で潰してしまった。

僕は彼にどんな形であれ命令しないし、彼は僕のことを決してご主人様なんて呼ばない。
口に出さずとも、確かめ合わずとも、二人はそうして幼い友情を守ってきたのではなかったか。
父には彼の父親があてがわれたように、僕には彼が専属の使用人としてあてがわれる。
その当たり前が、今はただただ苦しかった。