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神経質な敬語攻め

「――こら、宮島さん。ソファで転がってアイス食べない。前もそれで零したじゃないですか」
「あ。……あー、そんなこともあったねえ」
「大体貴方、さっき歯磨いたばかりでしょう」
「うん。後でもっかい磨く。暖かい部屋でごろごろするの幸せだよ、タカもやんない?」
「やりません」

呆れ顔で頭痛を堪える隆之の前で、宮島がにへらと笑う。
取り上げたバニラのアイスをダイニングテーブルに置くと、ご飯を置かれた犬みたいに、つられてふらふら起き上がってきた。
「立ち食いじゃなく、椅子に座って食べて下さいよ」
先に釘を刺すと、はあい、とのんびりした返事が宮島の口から発せられる。
大の男が行儀良く、そして幸せそうにアイスクリームを食べているのをじっと見守って。
そして少しだけ、眉を顰めた隆之に、宮島が首を傾げた。
「……どうしたの、難しい顔して。ごめんな、怒ってる?」
いえ、と呟いてから、隆之は視線を落とす。
ゆったりとして、いつだって幸せそうな彼が、たまに酷く眩しくなる、なんて。
「済みません。僕が少し、口煩かったです」
「へ? いや、平気だよ」
「そう、ですか。色々と言われるの、嫌かとは思うんですが」
「ううん。気に病まないでいーよ、俺はタカに怒ってもらって結構楽しいし。気にしてくれてるんだなーって幸せだし。
だからいつも半分くらいわざとなとこあるけど、やり過ぎたかなって今ちょっと反省してるとこ」

おおらかな笑顔と、優しい声。
そんな宮島に、隆之の浮かべた難しい表情がほんのり解けて、安堵が浮かぶ。
しかし表情を和らげた直後に、ふと、聞き捨てならないことに気がついてしまった。
「……って、『わざと』なんですか?」
「え。え、うん、えっと、あはは」
宮島が誤魔化すようにわざとらしく笑った。
泳ぐ視線を近づいて捕らえて、隆之はまたぴしゃりと言う。――全く貴方は仕様のない人だな。
「そんなに叱られたかったら、寝室で正座して待っていなさい」
「あ。……うん、じゃ、そうしようかな」
嬉しそうにしながら、ところでなんで正座? と子犬のように首を傾げる宮島を、隆之は半眼で見遣った。
「前に僕が行ったら、寝ていたことがあったでしょう」
「あれはタカが来るのが遅かったんだよー」
「とにかく、前みたいに布団もかけずに寝て風邪引いても知りませんよ。早く行ってください」
はあい、と宮島は笑う。隆之は溜息をついて、その背中を押し出した。

――それでも、宮島と出会ってから随分柔らかくなったと人には言われて。
些事を気にしてしまうことへ、自己嫌悪することも随分減って。
だから多分、「わざと」はもうなくてはならないものだということを、知っている。
遠ざかる宮島の鼻歌を聞きながら、隆之は静かに一人、微笑んだ。