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百戦恋磨

 人の流れをよけて壁際に立ち、携帯を開く。メール画面を睨んだまま、数分。
どういう文面にしたら自然か、そんなことを考えていたら、何をどう書いていいか分からなくなってしまった。
「佐々!」
 呼ばれて顔を上げれば、今メールを送ろうとしていた相手、黒田がこっちに向かって手を振っていた。
人の流れを器用に縫って、こっちにやってくる。
「今日はもう講義ないだろ? 少し早いけど、メシでも食いに行こうぜ」
「ん。僕も今、メールでそう誘おうかって、思ってたとこだった」
 携帯を閉じながら言えば、黒田が破顔した。
「そっか。じゃぁ、どこ行こうか。なんか食べたいもんある?」
「ラーメンかな」
「なら來来亭だな。この前は臨時休業くらったもんなぁ」
「そ。それ以来行ってないから」
「もう開いてんだろうし、行くか」
 肩に手をかけて促され、心臓が軽くはねる。黒田に好きだと告白されてからというもの、
こういうスキンシップがあきらかに増えた。今みたいに肩に手をかけるだけじゃなく、冗
談の延長みたいに肩を組んできたり、髪をかすめるように軽くなでられたり。僕はその度
に右往左往させられっぱなしで。
 ふと、手の甲がかすめるように触れていった。またも心臓がはねる。伺うように黒田を
見れば、優しく微笑む瞳にかち合う。本当に心臓に悪い。
「どうした?」
「なん、も」
 たまらず目をそらす。顔と耳が熱い。多分顔が真っ赤になってるに違いない。恥ずかしくてたまらない。
 こういう扱いには慣れてなくて、もう、どうしていいか分からない。

 黒田と知り合ったのは、大学に入ってからで、知り合ってからこちら、黒田が連れ歩い
ていた女の子は、片手で足りないくらいいたと思う。それがパタリとやんだのが、一ヶ月前。
それから二週間後に好きだと告げられ、本気でいくから覚悟してねと宣言され、今に至るわけで。
 エントランスの扉に手をかけようとして、黒田の手が触れて、また顔が熱くなる。黒田がふと笑う気配。
完全に黒田の術中にはまってるみたいで、なんだかだんだん悔しくなってきた。
 外に出ると、冷たい風が頬をなでていく。秋晴れだ。
「いい天気だなぁ」
 横を見れば、気持ちよさそうに空を仰ぐ黒田の横顔。
こっちはこれだけぐるぐるしているというのに、涼しい顔をしている黒田に、またも悔しさが頭をもたげる。
「僕、黒田が好きだよ」
 言葉はするりとこぼれ落ちてきた。昨日の夜さんざん悩み抜いたのが嘘みたいに簡単に。
 鳩が豆鉄砲をくらったような顔になった黒田をちょっと笑って、僕は溜飲を下げたのだった。