嫌いで別れたのではない男と再会

柔和な笑顔、笑うとぐっと細くなる茶色い瞳、ふわふわの黒い髪。
その何から何までに見覚えがあった。思わず言葉を失っていると、
健人はひらりと片手をあげて、やあ、と口にする。
やあ、じゃねえよ、とか、いつ帰ってきたんだ、とか、色々言いたいことはあった。
あったけれど、何より、今目の前にいる健人が本物かどうか確かめたくて、思いきり抱きしめた。
「祐君、苦しいよ」
耳元でゆるい笑い声が聞こえる。苦しめ。苦しんじまえ。
そしてそのまま俺から離れるな。
「本当に、健人?」
「……うん。本物だよ」
そう口にして、俺の腕に細い指先を絡める。すっかりやせこけてしまったらしい、
背中はくっきりと骨が浮かんでいて、ほんの少し怖かった。
「お前、やせたな」
「まあね」
「これから太らせてやる」
だから。そういって、健人の身体を剥がす。
丸っこい愛らしい瞳はアメリカに行く前とまったく変わっていない。
本当に、彼がいるのだと思った。震える唇を開く。
「もう、どこにもいくな」
「……うん。約束する」
ぱちりと瞬いて伏せられる睫毛。
白い頬に口づけて、好きだよ、と呟けば、その言葉は緩やかに溶けていった。


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最終更新:2013年01月04日 15:52