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犬好き×猫好き


「お前は犬に似てるよね」

 賢哉様は着物の裾を翻し、俺を見上げながら微笑んだ。
大きくて黒い犬。それが俺のイメージらしい。
僅かに首を傾けてそうですか、というと、彼は困ったように笑いながら「そうだよ」と返してくる。
 歩を進めると玉砂利の音が響いて、その品のよさすら賢哉様に合っているような気がした。

「賢哉様は、犬はお好きですか?」
「ああ、好きだね。従順で愛らしいじゃないか」
「……俺は愛らしいですか?」
「ああ。俺なんかに仕えるところが愚かで愛らしいよ」

 爪先で砂利を弾いて、嘲るようにつぶやいた。
愚かなものか。貴方は仕えるに相応しい人、なのに。
そういいたくて仕方なかったが、口を噤む。何を言ってもこの人は、理解しようとしないから。
光栄です、とだけ呟けば、賢哉さんは黙り込んでしまった。
静かな沈黙が落ちて、広がる。それを切ったのは俺のほうだった。

「賢哉様は、猫に似ていますね」
「……あはは、猫かあ」
「ええ。自由気ままでそれで高貴で。素敵だと思います」

低い声で呟けば、くすぐったそうに彼は笑った。
そしてゆるゆると俺に近づいたかと思えば、ネクタイを引いて、賢哉様の綺麗な顔が近づいてくる。

「猫に近づいていい犬は、お前だけだよ。さあ、わんって言ってごらん?」
「……わん」

犬が仕える猫も、貴方だけだと。
そう言いたかったけれど、この人はきっと理解しているんだろう。
故にこの人は、綺麗なんだ。