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まさか俺のこと?

「なあ、これって俺の勘違いかなぁ? でも、嫌いな奴には絶対そんなことしないよなぁ?」

武史の話が一区切りついたところで、俺は雑誌から目線を上げた。

「あ、ごめん。聞いてなかった」
「おいぃ! 頼むよ、ミスター!」

雑誌を机の上に放り投げる。
あいつの抗議の視線が突き刺さったが、俺は真っ向から見返す。
こいつが、今まで、しゃべっていたことなんて、心底、どうでも、いいからだ。

放課後、「話があるから、教室に残っててくれ」と言われ、奴が切り出したのは「好きな子ができた」という甘酸っぱくも香ばしい話題だった。
友情を優先するなら、俺はこいつの話を真摯に聞いてやるべきなのだろう。
だが、残念ながら友情にもテレカのように度数がある。

「ちゃんと話聞いてくれよ」
「お前さ、毎年テレビでやってるナウシカをちゃんと見る人?」
「は? まあ・・・毎年はみない・・・かな」
「だよなぁ! 俺も俺も!」
「それがなんか関係あるの?」

武史がコツンと指で机を叩く。イラついてる証拠だ。

「面白くても、毎年でと飽きるんだよ。それなのにお前は毎週毎週・・・バカか?」
「でも、今回こそ本当に・・・」
「一回でも本当だったことないだろ? ほら、この前のゲーセンの。名前なんつったけな・・・えっと・・・」
「あれは! あれは向こうが急にバイトやめちゃって・・・」
「でも、お前のことが好きならバイト仲間に伝言頼むくらい出来たんじゃね?」

武史が口をつぐむ。
俺は相手をやり込めた事にちょっとした充足感を覚えながら、椅子に座り直した。

「でも、今度は本当に自信ある。俺に笑顔で挨拶もしてくれるようになったんだよ」
「そりゃ客に挨拶するのは店員として当たり前だろ?」
「そうかもしれないけどさぁ。その笑顔が絶対ほかのやつに対してとは違うんだよ!」
「妄想もここまでくると怖いよ。落ち着けって」
「モテるお前には俺の気持ちなんてわかんねーよ! バカ!」
「言ってろ、バカ。付き合いきれん。帰るわ」

俺は鞄を手に取り、武史の方を振り返らずに教室を出た。
きっとあいつは夕日の中で項垂れているだろう。
俺が帰ってきやしないかと、置いていった雑誌を手に取りつつも、
教室の扉をチラチラ見ながら十五分ほど待ち続けるに違いない。
あいつとは小一からの付き合いだ。
あいつの行動なんて手に取るように分かる。
惚れっぽくて単純な奴の行動なんて、誰だって分かるさ。

俺はコンビニでジュースとパン、あと教室に置いていった雑誌と同じ雑誌を手に取り、レジに並んだ。
順番が来たが、後ろの人に譲った。

「お待ちのお客様どうぞー」

すぐさまもう一つのレジがあいた。
少し茶髪でお下げの女の子。
俺と同い年くらいだろうか? 目も大きくて可愛らしかった。

「可愛いですね」
「え?」

彼女は俺を見ると、顔を赤くしてレジを打ち出す。
少し顔を近づけ、ささやくように言葉を続ける。

「名前、なんていうの?」
「あの・・・困ります」
「いいじゃん。教えてよ」
「・・・合計で五百九十円になります」

彼女は袋詰めをしつつ、隣のレジに目をやる。同僚が会話に気づいていない事を確認すると「ナナです」と小さく答えた。

「ナナちゃんには彼氏いるの?」

首を横に振った。

「じゃあ、好きな人は?」

一瞬動きが止まる。今度は耳まで赤くなった。

「いるんだね」

俺は財布を取り出す。

「まあ、俺じゃないよね。初対面だし」

小銭がない。俺は軽く舌打ちすると千円札を取り出し、レジ台の上に置いた。

「好きな人がいるのに、簡単に名前教えちゃうんだ。凄いね、君。頭悪いね」

彼女の袋を持つ手が震えた気がした。

「ありがと。お釣りはいらないから。じゃあね、ナナちゃん」

俺は笑顔で店を後にする。
俺を見た彼女の顔を思い出し、吹き出しそうになるのを必死に抑えた。
恥ずかしさと怒りが混ざったあの顔。
きっと武史を見るたびに今日のことを思い出すだろう。

あの女が武史に惚れていたかなんてどうでもいい。
でもきっと武史の気持ちには気付いていたはずだ。
惚れっぽくて単純な奴の行動なんて、誰だって分かるからだ。

問題なのは武史があの子に惚れていたということだ。
あいつの恋を『本当』になんかさせない。
そのことで奴は苦しむかもしれない。だが大丈夫だ。
俺も同じように苦しむのだから