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人恋しい夜

寂しくて苦しくて、どうしようもない気持ちになる時がある。
煙草を吸っても酒を開けてもそれだけはどうしようもなくて、オレは雨の中携帯も財布も傘すら持たずに家を出た。

止みそうな気配すら見せない夏の雨は陰鬱な気分を助長させるに十分で、じんわりと足下から上がって来る寒さは孤独そのものだった。
さみしい。携帯のボタン一つで誰とでも繋がれるはずなのに、どうしてこんなにも。

簡易的な繋がりより、薄っぺらな言葉より、彼の熱が欲しかった。
人恋しくて堪らないのにそれは彼にしか満たせない。
他の誰でも良いのなら、どんなに楽だったろう。

ためらう事なくインターフォンを押すと、数秒の後に機械音と混ざった眠た気な声が聞こえてきた。
「はぁい、どなたですか?」
「オレ、です。」
緊張か、それとも期待か。冷えた喉から出た声は、少しだけ震えていた。
通話が切れ、遅れて廊下を歩く音。ドアが開くまでの数秒が酷く長かった。

早く彼の顔が見たい。早く彼の声が聞きたい。

早く、彼に触れられたい。

それなのにドアが開いて彼の姿を見た瞬間、先走った思いが邪魔をして声が出なかった。
「あ、の、」
らしくない、と笑われそうな程細い音。
あぁ、いっそのこと馬鹿にしてくれ。
淋しいからって夜中に人の家に押し掛けるなんて子供だなって呆れてくれてもいい。

「おいで。」

予想を裏切る優しい声色にオレは思わず顔を上げた。

「おいで、健人。」

「涼、さん、」

濡れた頬を撫でる涼さんの手は熱い。
この手が人恋しさを埋めてくれる。そう思うと、みっともなく縋り付かずにはいられなかった。