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舞台はスラム

荒廃した街の片隅。
泥と埃、血と汗にまみれて今にも呼吸をやめそうな少年が横たわっていた。
本来なら白く柔らかい肌には殴打された痕が無数に散らばり、身につける衣類はもはやぼろきれでしかなかった。

少年の目は天に広がる空をまっすぐ見つめていた。
澄み渡る青を憎むかのように、もしかしたら憧憬するように、徐々に光を失っていく瞳で睨みつけていた。
「死ぬのか?」
青空を遮るようにして少年の視界に男が顔を出した。仕立てのいいスーツに身を包んだ男だった。
後ろには屈強そうな男を2人従えている。
右腕にはめられた時計は、貧乏人には死んでも手が届かない代物だ。
物心ついたころよりこの街で育った少年にもそれは理解できた。
「君、死ぬのか」
男がもう一度訊ねる。少年は答えない。
「わかった。質問を変えよう」
泥と血が固まってこびりついた頬に、男は躊躇いなく触れた。
「君は、生きたいか?」
少年は痛みに震える腕を持ちあげて、頬に優しく当てられた手を、残す力の限り握った。
「……家にくるといい。その前に医者だな。おい、この子を車に、?」
握る力は弱々しいものだったが、少年は男の手を離そうとはしなかった。
男はゆるやかに微笑むと、スーツが血に汚れるのを気にも留めず少年を抱えあげた。

失われつつあった光が再び灯りだす。
握る手に、わずかに力がこめられた。
「その調子だ。君は生きるんだ」
男の細められた目に、少年は空の青を見た気がした。