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愛さないでください

「……そんなに嫌われることもないのに」
「え?俺?」
「あ、いえ、えっと」
ぼそっと口をついて出た言葉だったが、黒川さんにはしっかりと聞こえてしまったようだった。

黒川さんのスーツにピンマイクを付ける俺をじっと見つめる黒川さん。
テレビ画面の中からでも鋭いとわかる視線が直接俺に向けられているものだから沈黙など十秒ともたず、仕方なく俺は続きを話し始めた。
「いえ、あの、黒川さんてその、番組の中じゃ悪役、っていうかどうしても嫌われる……あ、すみません失礼ですよねすみません!」
「いいよ別に。そういう風に見られてるのは知ってるし、愛されキャラとか似合わないだろ」

「……そんなこともないと思いますけど」
お世辞でなく、そう思う。きつい感じの顔立ちだけれどその辺の俳優に負けないくらい整ってはいるし、こうして俺と普通に喋る分には優しい声をしている。

「うーん、ていうか、俺っていう嫌われ役がいることで番組が盛り上がってんだからさ、俺は全然気にしてないんだよね。むしろ愛されちゃったら失敗だと思ってる。元はプロデューサーに言われて始めたキャラだけどさ」
「でも変な嫌がらせがきてるとか聞いてますけど……」
「いいよいいよ。嫌がらせくらいタレントだったら多かれ少なかれあることだし。愛されたら駄目なの、俺は。そういう仕事なんだからさ。
……あー、喋りすぎたわ。とにかく俺は気にしてないんだから、こんなおじさんの心配する必要ないよ、瀬川君。キャラ崩れちゃうし。むしろ愛さないで?」

一スタッフでしかない俺の名前をしっかりと覚えてくれていた彼は、「あ、キャラって言ったのはオフレコで」と、ひどく魅力的な笑みと共に言った。
……絶対プロデューサーは彼の売り出し方を間違えていると思った。