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人恋しい夜

疲れた体でベッドに寝転がる。今すぐ眠りに落ちたいんだけど、一人きりのベッドが酷く寂しかった。
いつもの事なのにたまにあるんだよなあ、こーゆーの。
寂しいっていうのもセックスしたいとかじゃなくてただ単純に寂しい。
ベッドにもぐりこんだ時にシーツが冷たいとか、帰ってきた時に部屋の電気が真っ暗だとか、
そんなのもうずっと前からの事なのになあ。
年食うと涙もろくなるっていうけど、これもその一種類なんかなあー。俺、寂しいなあー。
枕に埋めた顔をのろのろと上げながら、一度だけ迷って携帯を手に取った。
……真夜中だ。まあ、何回か鳴らして、出なければそれで。そしたらまあ諦めもつくってもんでしょ。
寂しい気持ちが、以前だったら耐えられなかったけれどそこに諦めがつくようになったのも年取ったって事なんかなあ。

履歴に残りっぱなしの番号を探し当てて、発信ボタンを押した。
向こう側に繋がるまでの少しの隙間は今俺が寂しいと感じる原因が詰まっているようで少しだけ体が強張る。
もそもそと体をベッドの上で丸めながら携帯を耳に押し当てる。
一回、二回、電話の鳴る音。もう一回で応答が無ければ切ろう、そう考えていた時。

『……今、何時だと思ってんの』

無愛想な声はそれでも多分眠ってはいなかった。それくらい、声だけでわかっちゃうんだよ俺。
なーすごい?って聞きたいけどぐっと我慢する。声と一緒に表情まで浮かんできて思わず声に出さずに笑った俺に、
秀幸はまるでこっち側が見えるみたいに何笑ってんの、と呟いた。

「いやー、秀幸だなあって」
『……当たり前でしょ。どこに電話したつもりだったの』
「ん?お前んとこ……」
『それで俺以外が出たらおかしいじゃん』
「そーだねえ」

耳からじんわりと暖かさが広がっていく。あー俺ほんと寂しかったんだなー。ちょっと涙ぐみそう。どうしよう。

『で、どーしたのこんな時間に』
「え?えー……教えてほしい?」
『……うっぜえ、直哉』
「なんだよお前、酷いな……」

口と裏腹に秀幸の声は優しい。声だけだから余計にそう感じるのかな。俺の希望的観測だったりして。

「ねー秀幸、俺さあ、」
『……ん』
「お前の事、やっぱ好きだなあ」

お前の声とか、お前のそういうちょっと優しいとことか、優しいって見せたがらないとことか、
何だかんだ言ってこーやってつきあってくれるとことか。多分今、ちょっと呆れた顔してでっかい目細めてそうなとことか。

『……酔ってんの?』
「んー、ちょっと飲んだけど、酔ってはないなあ」
『じゃあ、どうしたの』

どうしたんだっけ。そうそう、俺、寂しかったんだよねえ。でも多分まー誰でもいいって事じゃなくて、
真っ先に浮かんだのがお前で、ほんとは会いたいんだけどさすがにちょっと無理だしだから電話してみたっていうか。
そしたらお前が出てくれたっていうか。そういう事なんだけどうまく言えない。
少しだけ頭の端がとろとろと、眠りに落ちそうになってシーツが体温にあったまってきて、あ、やばいなって思った。

「ひでゆきぃ、」

只寂しかったってのはほんとだよ。ちょっと人恋しいなっていうだけだったんだ。
俺がいくら貞操観念があんま無くってもさあ。そういうだけの時だってある訳で。
元々はそうだったんだけどおかしい。眠気が変質していくのがわかる。閉じかけた瞼の裏にゆらゆら、何かが揺れている。
なんで俺今こんなちょとヨクジョーしちゃってんだろ。
……あーそっか。電話の声って耳元だ。セックスに似てるな、とか思わず考えた俺の負け。

『……変な声』

そして俺の、そろそろぐずぐずになりかけた理性を秀幸は敏感に察する。
察せられた事に少しだけ浮かれる俺は結構な能天気で、片手で電話を、もう片手を自分の下半身に滑らせた。

「ひでゆき、俺さあ、」

なるべく平静を装って、何か話を続けようとしたけどもう無理だった。
意識はもうすっかりそっちにすっ飛んでしまっていて
秀幸がはぁ、と吐いた重い溜息すら耳元で呆れて吹きかけられた錯覚を起こして腰が疼く。

『何してんの……』
「……何だとー、思うー?」
『あんま考えたくない事』
「……秀幸、俺の事なんでもお見通しだねえ…」

疲れてるくせに元気な俺のそこは、手で握りこんで少し上下させるとすぐに勃ちあがった。
ぐっと上向いたそれを扱きながら、秀幸の呆れた声に耳を澄ませる。
目閉じて、手が動く度に静かに鳴るシーツの音のやらしさに肌が震えた。

「あ、……なー、ひでゆき、何か喋ってー…」
『あんたの変態プレイに俺巻き込むのやめてよ、ほんと』

秀幸が結構真面目な声で言う。あ、それ、それやばい。なんか罵られてるみたいでぞくっとした。
おかしいな、俺別にMじゃないのになあ……まあ疲れてるから、そういうのも、あんのかなあ……。

「それ、いー、ね、お前の、そーゆーの……」
『ほんと変態』
「んっ、そー、かも、……へへ、」

あーやばい。両手使いたい。っていうか、ほんとは後ろ弄りたくなってるんだけど、丸まった体勢で上手くいかない。
そのくせひくひく動いてて、そのもどかしさも俺を加速させて、
荒くなっていく息にそれでも秀幸が電話を切らないのを愛だなーなんて余計に嬉しくなっていく。

「ひでゆき、さ、」
『………』
「聞ーて、る?」
『………すこしだけ』
「ひでゆきはぁ、俺のこーゆーの、興奮しないの…」

俺は物凄く興奮するんだけどなあ。
先走りに濡れた手でぐちゃぐちゃと扱きながらそう呟くと、秀幸が急に押し黙った。
いや、さっきから黙りがちではあったんだけど。
それでも止まらない俺のどうしようもない手は、どんどんと快感を加速させていく。
あ、あ、と小さく声を漏らして、さすがにやばいかなと枕になるべく口を押し付ける。

『俺は、』
「……ん、…、何?」
『あんたと違って変態じゃないから、目の前にいる方がいいけど』
「……ひでゆきさあ」
『何』
「お前、スケベぇー…」

でも、お前のそれ、俺、ヤバイかも、もう。
体と心は別物だけど、一体になる瞬間みたいのがあって、その瞬間背骨あたりから通り抜ける快感にびくりと震えた。
秀幸の言葉はそれだけの何ていうか、俺の中の起爆剤的な所があって、もうどうしようもなかった。
ひでゆき、ひでゆき、と名前を呼ぶと、秀幸が三回に一回くらい面倒そうに返事をする。
ぐちゃぐちゃと手が濡れて、頭の中もぐちゃぐちゃになって、
耳元の声は遠い筈なのに今すぐここで耳たぶ噛まれたりしてるくらいにまでバーチャルな感覚が襲ってくる。

「あ、あー、ひ、でゆきっ、俺もー…イくっ…」
『……一人でさっさとイくの』
「ちょ、だって…お前の声っ……」
『自分勝手だよねほんと』

俺の気持ちも考えてよ、だって。お前、今言うなよ。ぐっと丸めた体が自然と更に丸くなる。
あ、あ、やばい。もうイきそ。
そういえば後ろ使わないでイくって久しぶりかもしれない、とかごちゃごちゃと考えてなるべく引き伸ばそうとしたのにもう無理。

「あっ、…っ、んんっ……!!!」

強く握ったそれがどくどくと、何かを押し上げていく感触。
詰めた息が肺から勝手に飛び出していって、それと一緒に俺の手にどろりと生温い精液が伝い落ちた。
丸めていた体が自然と伸びていて、ぴく、ぴく、と小さく痙攣するみたいに動く。
はぁ、はぁ、と何度か落ち着かせようとしても荒いままの呼吸にあわせて、ひでゆき、と小さく呟いた。

『……うん、ちゃんと聞いてるから』

思いもしなかった答えに俺は半分閉じて縫い付けられたみたいに動かなかった瞼を開く。

「……んな事言われたら、俺、もっかい勃っちゃいそーなんだけど……」

本当に馬鹿じゃないの、と呟いた秀幸の後ろで、孝之の部屋の重いドアががちゃりと閉められる鍵の音に俺は思わずまた目を瞬く。

『我慢してよ直哉。待て』

犬じゃないんだから、と笑いながら、俺はとりあえずどろりと濡れた手をそこから離して、
待ってるから早くねえ、とのん気に秀幸の耳元に囁いた。