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最後通牒

取引先の社長の娘と結婚しろ、でなければ家を出て行け。
親父にそう言われたと卓己が俺のところに泣きついてきた。
「家、出れば?一人暮らしすればいいんじゃねーの?」
「やだよ、一人で暮らすなんて心細いじゃないか。
 それにご飯だって作れないし」
「外食もコンビニ弁当もあるだろ?
 つか26にもなった男が心細いとか言うな」
「だって心細いものは心細いもの。
 それに外食やコンビニ弁当ばかりじゃ栄養偏っちゃう」
何が心細いものは心細いだ。栄養偏っちゃうだ。
黙って立ってれば知的で上品なお坊ちゃまにしか見えない
(実際そうなのだが)卓己は、俺の前だとなぜかものすごく残念な男に
変身してしまう。
「だったら親父さんの言う通り結婚するしかないんじゃねーの?」
二者択一で一方がダメならもう一方を選ぶしかないと
ごく当たり前のことを言ったら、
「省ちゃん、ひどーい」と泣き声が上がった。
「俺が省ちゃんのこと、…あ、愛してるの知っててそんなこというの?
 省ちゃんは俺のこと好きじゃないの?俺が結婚してもいいの?
 それに、愛のない結婚なんて相手の人に悪いじゃないか」
「そりゃまあそうだけど…じゃあ、どうするんだよ?」
泣くほど俺のこと愛してるっつーなら
一人暮らしするくらいの根性見せてみろよ。
つか、なんで最後にさりげなくまともなことを言うんだよ。
心の中でぼやいてると、
「俺をここに住まわせて?」
「は?」
「この部屋で省ちゃんと一緒に住みたい」
「この部屋、一人暮らし用のワンルームなんだけど」
「省ちゃんと一緒なら狭くても平気。
 それにいつも泊まらせてくれてるじゃない?」
「俺は、平気じゃねーよ。それに泊まるのと同居するのは全然別だろ?
 つか、この部屋は単身用の契約だから」
「じゃあ、じゃあ、もっと広い部屋を一緒に借りようよ。
 もちろん俺も家賃を出すし、掃除も洗濯もするし、
 料理だって頑張って覚えるから」
お前の場合は掃除も洗濯もまず覚えるのが先だろ?と
心の中でツッコミながら、俺は卓己の縋るような瞳を見つめ返した。
ああ、俺は卓己のこういう顔に弱いんだ。
初めて抱かれたときもこんな顔で懇願されたんだよな…。
そんなことを思い出しながら、俺は心の片隅で、
確か隣のマンションに2LDKの空き部屋があったよな、
などと思案しはじめるのだった。