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猫なで声

「ね~ぇ、宗吾ちゃ~ん」

わざとらしい声が上がったのはソファの上からだ。
足を投げ出して背もたれに寄りかかり、手にした文庫本から視線を外さずに秀二は続ける。
「冷た~い牛乳とか飲みたくならん?」
「…ならん」
俺は濡れた頭をタオルで乱暴に拭きながら答える。
シャワーを浴び終わり自然と足が冷蔵庫に向かう瞬間だったから、少し悔しくて珍しく拒む回答をしてみた。
「そっか~。そんなら、オランジーナ冷えとるよ」
相変わらず視線は文庫本に固定されたままだ。
なぜ読みながら会話が成り立つのか、不器用な俺には全く理解不能だが、秀二に言わせると俺のほうが理解不能だと。
冷蔵庫を開け、最近お気に入りのジュースを探すと、ドアの裏、牛乳の隣にそれはあった。
…反対側には、秀二の好きな銘柄のビールと、重ねられて冷やされているビール用のコップ。
「…………」
ほかには、ラップのかかった皿が数枚、それとこれまた俺の好きなツマミである裂けるチーズ。
きっと皿の上には俺の好物でありながら栄養バランスよく考えられて且つ腹にちょうどよい量のツマミが作られているに違いない。
(…素直じゃねぇなあ)
ソファでは先ほどと同じ姿勢で本を読み続ける秀二が見えるが、その目の前にあるローテーブルには何も乗っていない。
いつもは読書の友にコーヒーを欠かさないくせに、だ。

俺は黙って缶ビールとグラスをローテーブルに運び、ツマミの皿のラップを外し、これまた食器棚の中できれいにまとめられた二人分の皿と箸をトレイに載せた。
「なぁ、秀二」
「ん~?」
相変わらず視線は文字を追っているが、よく見れば何となく機嫌が…よい?
「俺、冷たいビール飲むけえ、秀二も飲むか?」
「…飲むとも~!」

あ、やっとこっち見た。
いつもそんなふうに笑ってりゃいいのにな。