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お互いに妻子ありの幼なじみ

「久方ぶりに時丸をみたが、ありゃあ本にお前さんの生き写しじゃなあ、なあ」
「阿呆、もうあやつはとうに時丸ではないわ」
もうろくじじいが、領主の名も忘れたのかと、同じく白髪のまじる年寄りが何やら皮肉を言っているが、もうろくと一緒に耳も遠くなったわと茶化してやれば、あの頃と変わらぬ血気盛んな剣幕で拳を振りあげてくる。
若い時分は、顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた。元服して髷を結い、戦陣を駈けるようになっても、共に妻を娶り、子を持つようになっても、二人の関係は変わらず年ばかりを重ねたように思う。
齢17にして家督を継いだ男の、頭主としての双肩にのし掛かったその重圧や、己なぞが測り得るものではなかった。
だか、こやつを取り巻く周りが、目まぐるしく渦巻いては黒々と追いつめるようにこの男をせき立てていたことだけは、20に足りぬ若造にも嫌と言うほど感じることができた。
ならばワシにできることは何か。変わらずに、変わってゆくこやつを、変わることを強いられる我が主を、己の前だけでは変わらず、言いたいことを言い、童のままでいさせることはできまいか―――――
そんな風に考え、その後考える間もないくらい激動の時代を共に生き抜いて、結局幼い思いつきを改める暇もなく今日に至っている。
「まったく貴様はジジイになってもちいとも変わらんな!」
「いやいや、こうしてお前さんをあやせるくらいの余裕は出来たからのう」
「何を言うか、昔からワシを一方的に振り回していたのはどこのどいつじゃ!」
「はっは、そう怒るな怒るな。綺麗な顔が台無しじゃあて」
「………!」
なにをふざけたことを…と、小さくなる言と紅の指す顔は、生娘のように可愛らしい。さすがに惚れた弱みと言いながらも、ぼけたものだと内心己に呆れたが、それでもやはり美しいものは美しいのだから仕方がなかろうと一人納得する。
「こんな皺の寄った顔のどこが綺麗じゃ、阿呆たれ…」
「んにゃ、お前さんは綺麗じゃあ。いくつになっても、この目に映る姿はあの頃のままじゃて」
にこりと笑ってやれば、ふざけるなと拳固が一つ。しかしまったく威力のないそれは、拳までが真っ赤に染まっている。
肩の荷が幾ばくか降りた今、余生を過ごすこの城はあまりにも寂しかろう。目の前の美しい主の幸福を切に願いながら、赤い御手を見つめながらこそりと一人笑みを深めた。