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絵画の中の男に恋をした

その日、俺は美術館に来ていた。
アパートの近くに新しい美術館ができたと後輩が自慢気に話しており、バイトの休みを利用してなんとなく足を運んでみた。
平日の午後という時間帯のせいか、館内に客は俺だけだ。
だが、これといって芸術に興味があるわけではなく、単なる好奇心で足を運んでいた俺にとってはどれもただの平面に描かれた線や点にしか見えず、やや歩調を遅くしてそれぞれの作品を流し見ていた。

終盤に差し掛かり、来たことを後悔しはじめた頃、一つの絵の前で歩みを止められた。
その絵は部屋の隅の方にあり、照明も薄暗く、また絵自体も小さく、決して華やかとは言えなかった。
そして俺自身も、なぜこの絵の前で立ち止まったのかはわからなかった。

30cmほどの正方形の中には、1人の男がいた。
何の変哲もない男なのに、どうして目が離せないんだろう。
俺はその男を知っているような気さえしたが、この絵を見るのは初めてのはずだった。
むしろ以前に見たことがあるとしたら、忘れるわけがないと思った。
男を見ていると、彼は俺に語りかけてきている気がした。
もちろん絵にそんな事はできないことはわかっていたが、美術館特有の空気にあてられたのか、俺は彼が何を伝えようとしているのか読み取ろうとした。

気付けば窓の外が黄昏に染まっていた。
閉館時間も近い。
次の瞬間、俺は自分でも信じられない行動を起こした。
彼を壁から外し、外に向かって一目散に走り出した。
受付の女性が何か叫んでいるが、何を言っているのかはわからなかった。

走り続けてようやく家についた頃には、あたりは暗くなっていた。
部屋に入り、散らかった物を足でどけて、ポスターを剥がし、彼を壁にかけた。
そして、彼との対話を再開させた。
彼との対話はとても魅力的だった。
彼は落ち着いており、ユーモアがあり、知的であり、とにかく惹きつけられる人物だった。
彼と話している間は時間を忘れるほど楽しく、睡眠時間も減り、バイトに遅刻することも多くなった。
顔色が悪くなった俺を後輩が心配してくれたが、寝ているより彼と話している方がずっとよかった。
俺は太陽を嫌う彼のために遮光カーテンを取り付け、バイトも行かなくなり、一日中部屋で彼と話すようになった。

俺はバイトを休み始めた先輩の家に来ていた。
最近顔色も悪かったし、変な病気にでもなってないといいんだけど。
お前ならいーよと無用心な先輩にもらった合鍵を使い、部屋に入る。
「先輩、いるんすかー?って暗っ!」
「電気どこだったっけ……あ、ここかって誰もいねー」
俺は散らかった部屋を見渡したが、先輩はいなかった。
実家にでも帰ったのかな?
「あれ?こんな絵あったっけ…?」
以前部屋に遊びに来た時にはポスターが貼ってあったはずの場所に、小さい絵がかかっていた。
絵には男が2人並んでおり、どこかで見たような顔だった。
「ってこれ右側先輩じゃんw先輩、自画像飾るとか趣味悪いっすよwww」
けれど、その絵はどこか惹きつけられるものであった。
「先輩、今度返すんでちっと貸してくださいね……」
良くないことだとは理解しながらも、俺はその絵を持ち帰らずにはいられなかった。