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荒くれ傭兵と士官学校出エリート

何を言ったのか、思い出してみる。
「士官学校出のエリートってだけで人の命を預かろうってのは、図々しいんじゃないか? え?」
「自分のタマひとつ守れやしねえひよっこ」
「俺達には命令無用だ、こっちは士官様のお気に召すように上品にできてないんでな」
「せいぜい足手まといにならねえようにな、お坊ちゃん」
そもそも自分達傭兵部隊には別の上官がついていて、そいつはそれなりに老練なたたき上げだったので不満はなかった。
言えば、若い士官はよいからかい相手だったというだけのことだ。
若い士官は何を言われても言い返さず、ただきゅっと唇をかんだり、眉をひそめたりして、そんなところがおもしろくてまたからかわれた。
それなりに厳しく部下には接していたようだが、部下の方もなんとなく軽く扱っているようだった。
若いというのはそれだけでつらいものだ。
つまり自分達を含め、この小さな辺境部隊は、暗い退屈な日々のうさを若い士官相手に軽く晴らしていたというわけだ。

忘れ去られていると油断していた部隊に急襲があったのは、一昨日のことだった。
あれから二夜が明けている。部隊は壊滅状態、援軍はこない。
残ったわずかな兵は森に隠れたが、低くとどろく回転翼、遠くに響く銃声から、そう長く持ちそうもないことは明白だった。
傷を負った奴のうめきも、昨夜のうちにほとんどが途絶えた。
ばかばかしい。おのれの実力を頼みに生きてきたが、ほとんど手も足も出ずここで終わりだ。
「……戻ったら畑を買うつもりだったが」
思わず漏れた自嘲に、期待していなかった返事があった。
「田舎のなのか、お前のくには?」
いつの間にか、あの若い士官がすぐ隣の茂みにいる。
「あんた、生きてたのか」
「運がよかった、と言いたそうだな」
「……ああ、運がよかったな、兵舎は木っ端みじんだった」
「……たまたま外に出ていた。部下達はだめだったろう。お前の隊は?」
「ちりぢりでわからん。まあ、こうなりゃ遅かれ早かれ誰の運命も一緒だな」
タタタ、と軽い銃声がまた響いた。遠いと思う。
「移動したいが……どこも敵でいっぱいだろう、それにお前達を集めねばならん」
「無理だよ、士官さん、じたばたしてもはじまらねえ」
「投降してもいい」
若い士官はあっさり言った。
「あんた、それでもいいのか?」
「さて。どちらにしても命がないのなら、少しは分がある方にかけたい」
驚いた。ひ弱で経験のないこの男が、敗残の将として泥をかぶるつもりだ。
「俺たちは所詮雇われ兵だが、あんたは違う。裁判が待ってるぜ」
若いから、何も知らないから。馬鹿だから、平然として?
見返したら、疲労と絶望に充血してなおもまっすぐに俺を射た目が、生涯忘れられない光景となった。
「俺の役割だ」
もぞもぞと藪の中を、軍服の破れを引っかけながら這い出し、
「協力してくれ。生き残っている者をなるべく集めたい」
この男を死なせたくない。惜しい。
奔流のようにせり上がった思いは叶うことがなかった。
最後に見たのは、泥まみれの背。銃を突きつけられて、俺達をかばうように立ちふさがる。
思うたびこの胸に覚える激しい痛みだけが、俺が預かっているあの男の勲章なのだ。