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高額賞金首と賞金稼ぎ

その世界は全てにおいて貧しかった。
警備隊が腐敗、自警団が役立たずの代名詞として謗られる世で、
唯一発展を遂げたのがハンターギルドと呼ばれる組織だった。
どんな軽犯罪でも、どんな貧乏人でも、報酬らしきものを用意すれば誰でも憎い相手を賞金首として手配できる。
ギルドに登録されたハンターが、その報酬のために人を狩る。
依頼者とハンターの間に立つ、情報を統括する中継ぎ人として、それは存在していた。

「旦那ー」
「………………」
「腹減ったぁー。ひもじいよ、旦那ぁ」
「…………うるさい」
体を引きずるようにだらだらと歩いている男に力のこもらない苛立ちをぶつける。
もう数日、何も食べないまま歩き続けていた。
果てしない荒野の中、思い出したようにぽつぽつと点在する町までまだ距離がある。
「やばいよ旦那。今度こそ年貢の納め時かもしれねえ。もし俺が死んだらだな……」
これだけ騒ぎ立てられるなら、なんだかんだで余力がありそうだ。
最初に、仏心を出したのは失敗だったかもしれない。何度したかわからない後悔を繰り返す。

こいつと最初に出会ったのは、ここと同じような荒野の真っただ中だった。
骨と皮に、辛うじて肉がくっついてるような、そんな乾ききった風体で倒れ伏していた。
まだ死んで間もないかもしれないな――。一瞬の黙祷の後立ち去ろうとして、その足首を掴まれた。
あまりのことに驚いて振り向くと、ぎろりと見上げる目とかち合った。
俺を見据えたままなんの動きも見せないので、最後の力を振り絞って死んでしまったかと思った。
ただ、命の光は瞳の中でぎらぎらと燃えている。
当時を心の中で振り返っても何故そんな真似をしようと思ったのかは自分でもわからない。
これで生きるか死ぬかはこいつ次第だと、なけなしの水と食料を置いて、その場を立ち去った。
それから随分と後、徒党を組んだごろつきに一人立ち向かう男に助太刀をした。
これで借り3つになっちまったな、と言う男の顔は紛れもなくかつての行き倒れのものだった。
驚く俺を尻目に奴は、なあ、俺あんたのこと知ってるぜと心底楽しそうに笑いかけてきた。

奴は多くのことを俺に話した。
自分はちんけな賞金稼ぎであること。こいつらはギルドから手配のかかった賞金首だということ。
俺がどれだけ多くの奴らに首を狙われているかということ。
そうした愚にもつかないことを一方的にまくし立てるだけで、
俺の素性を知ってるにも関わらず一向にギルドに突き出す気配も無く戸惑った。
「旦那は俺の非常食よ。借りもあるし、本当に食うもんに困ったら遠慮なく金にさせてもらうわ」
そう言ってへらへら笑う奴の真意が見えず、どうにも距離感を掴みかねた。
以来、ずるずると付きまとわれる形で二人旅を続けている。

……今度こそ捨てていってやろうか。
頭の中で物騒な思いが渦巻くも、もうこいつを撒くだけの気力は湧いてこない。
同行者はまだスピーカーのように空腹を訴えている。ため息を一つついて、荷物袋から乾燥食を取り出した。
「食え」
差し出すと、虚を衝かれた顔をして固まった。
「これが本当の非常食だ。覚えておけ」
ぽかんとした間抜け面。その様を見て、少しだけ胸がすいた。
「へへへ……。やっぱ旦那は優しいなぁ。
 もう借りを増やすわけにはいかねえから、これはいいや。
 ――なあ、一体あんたは何をしでかしたんだ?」
背中が冷える思いがした。
まさかこんなタイミングで聞かれるとは思わなかった。
「あんたみたいにとんでもない懸賞金がかかってる奴は、
 デカい犯罪を繰り返して大勢に訴えられるか、――権力者に目をつけられるか。どっちかだ。
 なあ教えろよ、何故だ? もし俺が――」
「……じゃあお前は、何で少額専門のバウンティハンターなんてしてるんだ、と聞かれて答えられるのか?」
不意打ちをくらった苛立ち紛れに、問い返す。
一緒に旅をして分かったがこいつは決して腕が悪いとか、頭の回転が遅いというわけではない。
獲物さえ選べば、日々の糧を得られるくらいの生活ができるだろう。
なのに、こいつが狙うのは少額、というどころか、はした金だ。
中には報酬に見合わないほどの危険な犯罪者もいて、ピンチに付き合わされることも少なくない。
割に合わない。実入りが少ない。誰も選ばないような仕事ばかりだった。

「旦那ぁ」

今までハイになって喋り倒していた笑い顔は、どこぞへと消え失せていた。

「腹減った」
「そうか」

それからは二人黙々と歩いた。
未だに俺は、隣に立つこいつとの距離を掴めないでいる。