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武家×軽業師

〈中世〉
高麗や唐土や天竺や波斯よりさらに西の果てから使節団が来朝した
俺は北面武士として、使節団が宿泊する屋敷の警備に当たっていた
端的に言うと一目惚れだ
使節団への歓迎の宴席で警備をしていたときだ
使節団に同行していた軽業師の少年が歌舞を演じ始めた
その美しさは言葉に表しようがなかった
髪は見たこともない白金色
瞳は秋晴れの澄んだ空の色
口さがない輩は「鬼のようだ」などと陰口を叩いていた
俺にはまさに極楽で神仏に仕える小姓の如く見えた
そして、その日の夜に警備係の職権を悪用して……夜這いした
無理矢理に向こうの獣の毛皮で織られた服を剥がすと下には雪のような肌が広がっていた
俺は夢中でその雪原に手と足と舌で跡を付けた
本当はどう考えているかは分からないが、はっきりと俺を拒んでないのも確かだった
それから連夜に渡って俺は体を重ねた
しかし、とうとうその日が来た
使節団は予定の日程を終え、故国に帰朝することとなった
明日の朝に都を離れる
やるのなら今夜しかない
俺は意を決した
少年を無理矢理に連れ出したが、すぐに気付かれてしまった
一時的な潜伏先として予定していた廃寺に潜り込んだが、すっかり周りを検非違使たちに囲まれていた
色に狂った男の末期として俺が自刃するのは当たり前だ
ただどうして自分が恋しい人をこのように巻き込んでしまったのか
「俺はこれから死ぬが、お前は全く死ぬ理由がないから生きて欲しい」
「俺に無理矢理に訳も分からず連れ出されたと言えばお前が罰されることもないだろう」
言葉が通じたかどうか分からないがそういう趣旨のことを俺は伝えた
いよいよ検非違使たちが踏み込んで来るようだ
ありがとう、一炊の夢だったが実に楽しかった
俺は小刀で首を切り裂いた
鮮血が溢れ、意識がかすみ始めた……
その最期の刹那に少年が俺が自刃に使った小刀を手に取って自らの首に刺したのが見えた

〈近代〉
俺の父親は箱館戦争で五稜郭に立て篭もって最後まで戦った武士だった
祖先を遡ると鎌倉時代辺りまで遡れる由緒正しい武士の家柄だ
ただ江戸の頃には貧乏な御家人に落ちぶれていたようだった
父親は五稜郭で死に損なって刀を置いてそのまま箱館に居ついて商売を始めた
俺は父親が髷を切ってから箱館で生まれた
父親はそれでも武士を完全に止められなかったようで、土地を借りて時代錯誤な剣道場を開いた
場所は露国の教会の目の前だった
一つだけ忘れられない思い出がある
俺が十五歳くらいの頃だったと思う
教会の催事で露国より軽業師の一団がやって来ていた
ご馳走も振舞われるとかで俺も信者でないのにちゃっかり客として紛れ込んだ
そこで凄いものを見た
剣を持って踊っている少年がこの世の物とは思えない美少年だった
俺は息を飲んだ
食べ物目当てだったのに食欲はどこかへ消え失せた
大鍋にたっぷり入った紅い汁物や露国風具入り揚げ饅頭が配られ始めていた
俺はそれを無視して夢中でその少年を探した
なぜか少年は大人たちから離れて教会裏手の白樺の林で一人で佇んでいた
俺はもう居ても立ってもいられなくなって……犯してしまった
一通りの行為を終えると少年は俺のことを責めることもせずにそそくさと教会の方に走って行った
俺はしばらく余韻に浸ってから教会に戻ると、食べ物は全てなくなっていた
少年は大人に告げ口などはしなかったようで、その後にお沙汰は何もなかった
あの少年はどうしているのか……ずーっと心に引っかかったまま時は流れた
その後に俺は地味に商売をしつつ父親から継いだ剣道場の師範も続けた
そして、お迎えがいつ来てもおかしくない齢になった
気がかりは樺太に引っ越した末の息子夫婦と孫のことだ
そろそろ時局の雲行きも怪しくなってきた
早めに樺太での仕事は切り上げて内地に戻って来いと何度も手紙を出したがどうなることやら

〈終戦直後〉
俺には一つだけ気がかりなことがあった
それは樺太で唯一できたロシア人の友だちのことだ
豊原にあった俺の家の隣家に住んでいたロシア人一家
そこに俺と同い年のロシア人の少年がいた
それはそれは凄い美少年だった
少年雑誌の冒険小説に出てきそうな白皙の美貌の持ち主だった
一家は元々はモスクワで代々続く軽業師の一族だったらしい
ところがロシア革命の混乱で赤軍から弾圧されそうになった
そして流れ流れて東の果てにまでたどり着いたそうだ
きっかけはよく覚えてないけどアイツとは子供のときからよく遊んでいた
親父さんは豊原の競馬場やら料亭の宴席なんかで芸をして生計を立てていた
アイツも親父さんと一緒に芸を見せていた
新しい芸を覚えると最初にこっそり俺にだけ見せてくれた
俺は俺でアイツに祖父から習った剣術を見せたりした
いよいよ戦局が激しくなっても、俺とアイツの友情は変わらなかった
そして日本は戦争に負けた
状況はよく分からなかったが、とにかく豊原に居続けたら危ないようだった
俺は両親と一緒に北海道に引き揚げることになった
アイツとはお別れだ
引き揚げ船に乗るために豊原を出発する前日に最後のお別れの挨拶をしに行った
もう二度と会えないことは何となく分かっていた
合意の上で近所の廃屋の中で体を重ねた
互いに果てて何とも言えない時間を過ごしていた
と、その空間の弛緩を銃声が破った
ソ連軍が侵攻して来たのだ
それからのことは余り記憶にない
ただ逃げることと家族を探すことに夢中だった
アイツに最後の「さよなら」を言うことができなかった
幸運にも北海道へと向かう引き上げ船に両親と一緒に乗ることができた
今はただただアイツの無事をひたすら祈るしかない

〈現代〉
俺は北海道で一番サッカーが強い高校のサッカー部のキャプテンなんかしている
今日は来日中のロシアの名門クラブのユースチームと試合をすることになった
一番の要注意はユースのロシア代表にも選ばれているフォワードの背番号11の選手だ
とにかくトリッキーなボール捌きが上手でディフェンダーをひょいひょい抜いてしまう
それで付けられたあだ名が『軽業師』なんだそうだ
ちなみに父親はロシアサーカスの芸人で代々続く軽業師の一族と言うのはコーチからの情報
俺も実は家計図なんか残っている武家の末裔だから、そういうのを聞くと燃えるな
さてそろそろグラウンドにあちらさんたちが到着したようだ
その刹那に俺は強烈な視線を感じた
視線の主は……アイツだ
あれが噂の軽業師か?
うわーっ、なんかラノベとかに出てきそうな銀髪の美形の凄いイケメンだわ
……何だろうか、この感じは?
初対面のはずなのにずーっと大昔から知ってた気がする
と、軽業師はいきなり俺の方に向かって猛ダッシュして来た
そして俺に思いっきり抱きついて大声で言った
「ヤットアエタネ!!! コンドコソゼッタイニハナサナイ!!!」
初対面十秒でいきなり凄いことになった
ただ俺もこの軽業師を絶対に離したくないとその瞬間から強く思うようになっていた