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逃げる

 逃げてくれればいいのに。
切々とそう思っていることを、きっと彼は知らない。



 最初は憧れだった。
見た目も良くて性格も良く、仕事に対して真摯で。
自分もこういう人間になれたな、と思っていた。

 賢一郎、と呼べば、くすぐったそうになんだよ、と返してくれる。
なあ、と声をかければ、んん? と緩やかに微笑んで見つめてくれる。
そんな笑顔が、そんな声が、俺だけに向けられればいいのに。
いつのまにか。本当にいつのまにか、そう、思っていた。

 お前に気軽に触れる人が憎くてたまらない。
お前に気軽に声をかける人が憎くてたまらない。
憎いほどに愛しい。

「智昭?」
「え? あ、何?」
「眉間に皺寄ってる」

はは、と優しい笑顔。
ああやっぱりお前が好きだ。でも、この好きという気持ちが大きすぎて、怖いよ。

「賢一郎」
「んー?」
「……なんでもない」
「意味わかんない」


なあ、逃げてくれよ。
俺の重い重い愛が、溢れてお前を壊す前に。