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ベタだけど

(……飽きた…)
見覚えのある爆発シーンを目にしながら、瀬戸はソファに深くもたれた。擦れた合皮が耳元で短く声を上げる。
(わかってるさ悪いのは俺だ。後ろ暗いゲイがマンネリで辟易としてるだなんて、贅沢すぎる悩みだ)
画面を見たまま手元で人差し指を立てる。中指、薬指と立てて五まで数えたところで、片手では足りないことに気付き、もう一度親指を折った。
六年だ。
鈴井と、二人で過ごすようになって六年。
三年目には粗方のイベント事はやりつくしてしまったし、丸四年経った頃には傍にいることが当たり前になっていた。
それからは、焼き直しのような日々。いわゆるベタな恋人同士。
これが居心地なのだと、信頼できるパートナーという関係なのだと、そう思っていた。
思い込ませていた。自分に。
(鈴井は悪くない、安定してるだけだ、日曜の十時からレンタルのDVD…二人の趣味だったじゃないか)
自分の中でそれが過去形になっていることに、寒々しい違和感を覚えた。
きっとこのあと鈴井は、二本目を観る前に遅い朝食を作るだろう。いや、早い昼食か。どちらでもいいが。
そうしてなにが出てくるか知らないがそれはきっと食べ慣れた雰囲気の味で、自分は美味しいと感じるだろう、いつものように。
(飽きた、飽きたよ鈴井…なんでまた家なの。わかってるよ昼間から外出て手なんかつなげないもんねわかってんだよ、わかってんだけどさぁ…)
鈴井と別れてまた別の誰かと付き合っても、休日の過ごし方なんてさして変わらない。
そんなことも勿論わかっているのに、瀬戸はもし鈴井と付き合わなかったら、大学に入って鈴井に出会わなかったら、そんなことばかりを考えていた。
(ああ映画が頭に入ってこねえよ……とかいってテレビで何回も観たやつだけどさ。
 知ってるよこれ、二十年くらい前のだろ。次は警官隊が突入してきて、でも間に合わなくてエレベーターが爆発するんだ、それで)
「瀬戸」
「え?」
突然の呼びかけに一瞬ぎくりとする。
「なに、鈴井」
言いながら瀬戸の頭では、ああこんな鈴井の顔も、見たことがあった、どこでだっけ?と、かすかな記憶が揺れていた。

視界の隅で、画面いっぱいに火柱があがる。
「愛してるよ。なにがあっても、僕が君を守る」
重なるはずもない英語と鈴井の声が重なって聞こえた。画面を見る。同じ言葉が字幕に出ていた。
(あ、思い出した…最初に二人で出かけた、リバイバルの…)
人もまばらな映画館で耳打ちをしてきた、六年前の鈴井だ。座席の影でそっと手を繋いだあの日だ。
押し寄せる記憶に瀬戸が呆けていると、鈴井が照れながら笑った。
「いやー、俺恥ずかしいことしたよな、はは。すげーベタなセリフだし」
「え、いや……鈴井は、かっこいいよ」
「なんだよそれ。あ、でも本気だからな。言ってることは嘘じゃないよ」
微笑みながら、鈴井は瀬戸の手を握った。つい先ほどまで憂鬱に六年を数えていた右手。
(そういやあの時、二人して顔赤くなっちゃって…エンディング終わるまで、外出られなかったっけ)
次々と蘇る思い出に、胸の辺りがこそばゆくなる。
「腹減ったな、どっか飯でも食いにいく?」
そう言って席を立った鈴井の手を、今度は瀬戸から握る。
「なんか作って。お前の飯、食いたい」
「おう、いいよ。じゃあ次のDVDセットしといて」
「うん」
まだまだ好きだ、飽きただなんて、馬鹿げた勘違いだ。
湧き上がる笑みを堪えきれずにいたが、リモコンを手にしたところで堪える必要もないことに気付いた。
鈴井の鼻歌と水の音が聞こえてきた。相変わらず、どこかずれたリズムだ。
エンドロールの途中でDVDを止める。
「鈴井、今度これ買おうか」
「えー?なにー?」
「なんでもねー」
映画のために閉め切っていたカーテンを、瀬戸は思い切りよく開けた。