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ギリギリアウト

「先生、卒業したら俺を男として見てくれるっていったよね」
卒業式も終わり、クラスの生徒ももう帰っていった教室。
教壇にのしかかって、上から押さえつけてくる石神に答えを出せない。
目を逸らして窓の外を見る。
既に夕陽も落ちて、昼夜変わらぬ桜だけがハラハラと風に飛ぶ様が見える。
「…気の、迷いだ。卒業したんだから、そんな冗談…」
「3年間。ずっと迷うわけないだろ!」
ドンと教壇を叩く肘の音に情けないくらい震える。
「石神…」
「先生、好きだ」
ぎゅうと抱き締められる腕に、応える事は出来ない。
思春期に大人に対する憧れの延長で、身近な教師に対する尊敬を錯覚する事など良くある話だ。
確かにそれは恋かもしれない。
だがしかし、一過性の熱で将来に持ち得る本当の恋人や家族を奪うような事は、教師として大人として人間として決してしてはならない。
「石神、…気を持たせて悪かった。冗談だと思ってたんだ」
だから諦めろ。
こんな事はいつか過去にして、笑い話にしてしまえばいいよ。
「じゃあっ、…抱かせろよ。一回でいいから」
似つかわしくない声に目を上げる。
初めて会った時には幼いばかりだった顔が、今では覚悟をもって成長をした青年へと変わっていた。
石神には出会った時のイメージで記憶が止まっていたんだと、この瞬間思い知らされた。
今初めて石神という男と出会ったような、不思議な感覚。
じゃあさっきまでの石神を思い出せるかと言われれば、酷く曖昧で。
背中に冷たくあたる教壇と、熱い石神の吐息と指。
お前は31日までは僕の生徒なんだよと言えば、こんな事はなかったのか。
この結果を先延ばしに出来ただけなのか。
石神以上に求めてしまう、煮えた頭では答えをだせない。