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義兄弟

※ほぼ裸の女性と暴力描写がありますので注意





「俺たちは運命共同体だ」
そう言った秋川の言葉に、僕は呪われた。

ヒーローだった。秋川は僕の。
小学校二年生の頃、母親譲りの青い目が生意気だと、一部のクラスメイトから毎日のようにいじめられた。
そうして小学校三年生には、父に貰った大きな伊達メガネが生意気だと、毎日のようにいじめられていた。
異質を排除するのは人間の本能なのだ、致し方ないのだと、彼らは白血球なのだと、図鑑を見ては自分に言い聞かせていた。

その日、僕は河川敷にいた。自らの意志ではなく。
それから偶然に秋川が通りかかった。他所のクラスの人間、という程度の認識だったので、もちろん何も期待はしていなかった。
けれど僕が河川敷で引きずり回されているのを見た秋川は、一目散に走ってきてまず僕を殴り、それからいじめっ子達をボコボコにした。
みな同い年とはいえ、体格の大きないじめっ子達を打ちのめす神がかった強さは、まさにヒーローだった。
僕は手足の痛みも血の味も忘れて、ただ秋川に見惚れていた。
僕の数十倍ボコボコになった彼等を尻目に、秋川はそのまま僕の手を引いて帰った。
その間も僕の耳には、秋川の拳が切り裂いた空気の音や、踏み込んだときの砂利の音が何度も何度も響いていた。
その音に混じって秋川が「明日あいつらが先生にチクっても、俺を庇えよ。俺たちは運命共同体だ」と呟くのが聞こえた。

それからというもの秋川は、崇拝から抜け出せずにいる僕を見抜いているのか、「運命共同体だろ」と僕を都合よく振り回した。
対外的な犯罪こそ強要されなかったが、塾へ行く前に煙草を吸わされたり、深夜だろうが呼び出されて所構わずセックスの相手をさせられたりと、それは大半が僕の理解の範疇を越えていた。
煙草は特に美味くも不味くもなかった。
セックスも何ひとつ、感動するようなことはなかった。
僕が欲求不満を感じるよりも、秋川が発情するサイクルの方が短かったので別段困りもしなかった。

いつもと同じように、短いメールで呼び出された。
『18時、家』
前回から二日は開いたから、おそらくヤらせろと言うんだろう。上か下か、僕に決定権はない。
着いてから合鍵で部屋に入ると、奥から誰かの話し声がした。
「秋川?」
閉じかけた扉を押して中へ入る。
「……誰だ、それ」
女がいた。多分、僕らと同じ歳の。
上半身裸で下着一枚だけを身につけたその女は、躊躇いも恥じらいもなく「これ?けっこーイケてんじゃん。あってゆーかうっそガイジン!?」と僕に詰め寄ってきた。
秋川はまだ制服を着たままで、「穴兄弟ごっこしようぜ」とわざと馬鹿そうに言いながら、僕とその女が並んでいるのを楽しそうに写真に収めていた。
気付くと女を殴っていた。手の甲で一発、跡にはならないだろう程度に。
よろけた女は叫びながら僕を殴った。長い爪に引っ掻かれる。カラーコンタクトが飛んだらしい、瞳が大分小さくなった。
女には構わずに、僕は秋川の襟元を掴みベッドに引きずり、そのまま押し倒した。
「おい、なにすんだよ!つーかマミ、大丈夫かよ」
秋川は困惑しながらも女に声をかけた。一層腹が立つ。
刃物を探すが見当たらない。仕方ないので秋川の小指の腹を噛み千切った。鈍い悲鳴らしき声が聞こえる。
「ローション無しでブチ込まれてみたい」と言った直後の声に似ている。
あのとき秋川は泣いたんだっけ?中々思い出せずにいると、口中で血の味がした。
九歳のあの日とは違う味。自分のものではない鉄の味。ひどく不味い。
「秋川、噛めよ。義兄弟にならなってやるよ」
続けて「運命共同体だろ」と言おうとしたが、溢れてくる血が零れそうで言えなかった。
秋川は数秒迷ったが、大人しく僕の小指を咥えて間接のあたりに歯を立てた。当たり前だが痛い。女は半分泣きながら、服を抱えて飛び出していった。
「お前、…っぐ、ぇ゙ほ」
僕の血でむせたらしい秋川が、いい加減どけという目で睨んできた。
知ったことか、誕生日は僕の方が先なんだ。僕が兄貴なんだぜと思いながら、口に溜まった秋川の血を飲み込んだ。