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自己完結

夏休み、14時22分。最寄り駅まであと10分。
汗で張り付いた制服のシャツを、いっそ脱いでしまおうかと思案していると、土手の方からの川風に交じって耳慣れた声がした。
「好きだ」
と、思ったよりも近く。
右隣、多分滝野の口から。
というか今は、滝野しかいないから。
いや、でも。
空耳か?空耳だよな?
…うん、空耳だよ。
きっと牛丼食いたいとかそんな話を俺が聞き逃したんだよ、そうだろ滝野。
「滝野…?」
想像の500倍くらい情けない声で呟くと、普段と変わらぬ冷めた感じで「なに」と聞き返された。
続けて「お前、顔色悪いぞ、熱中症か?貧血か?」と普段と同じに聞いてきた。
ああなんだやっぱり空耳か、空耳ならいいんだ。
だって俺たちは男子だもの男子高校生だもの、17歳になって全身まるきり男になって、それでだって「好きだ」なんてやっぱりちょっと辻褄が合わないし。
だって俺を好きなら滝野はもっと、もっとそれなりに焦ったりしてるはずだし。
それでだって俺たちは今夏期講習の帰り道だし、滝野は今度から野球部で新主将に…ああ違うこれは関係ないんだ。
だって滝野って巨乳派だって言ってなかった?村上なんとかみたいなふっくらした子が好きだって俺だって筋肉ないわけじゃないから割とゴツっとして村上なんとかには程遠いし…。
いやでもあれはタカちゃんに言わされてただけ?
わかんねえ俺が好きならもっとこう、もっとわかりやすく記号化された数式がabの違う、サインコサインタンジェント、違う!
ああもうぐちゃぐちゃだよ滝野、どうしてくれんだよ。
「…滝野ヒマだろ、俺かき氷食いたい。日野屋で」
「いいけど、具合は」
「元気元気、超元気。ヤリも投げられそう」
「…あっそ」
歩き出した滝野の思い切りのいい歩幅に俺はすぐ抜かされて、でもそれから少し合わせてくれて。狭くもない道で寄ってくる滝野にやっぱこいつ俺のこと好きなのか?って思ったり。
それから日陰を歩かされてることに気付いてやっぱ好きなんじゃん!って思ったり。

だけどかき氷食ったら頭冷えたよ、ちゃんとわかったよ。
やっぱ空耳だ、俺が言って欲しいだけっぽい。