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自転車二人乗り

「……違う。確かに俺は自転車で二人乗りがしてみたいといったが、これは違う」
「何が違うんだ、立派に二人乗りしてるだろ」

 そう、確かに今俺が乗っているこれは自転車に分類される乗り物で、そして二人乗りだ。
 だから決して間違っているとは言えない。けれど、それでもこれは違うと叫んで許されると思う。

「普通、二人乗りがしたいってリクエストに対して『二人乗り用自転車』を持ちだしてくるか!?」

 普通の自転車より長い全長。小さめの車輪。縦に2つ並んだサドルとペダル。
 休日に突然呼び出された俺の前にこいつが嬉々として出してきたのがこの面白自転車だった。
 こんな漫画でしか見たことのない自転車が普通に存在するということにまず驚いたが、
自分が発した「二人乗りをしてみたい」という発言に対する答えがこれだということに更に驚いた。
 「自転車二人乗り」と「二人乗り自転車」。順番を入れ替えるだけで大違いだ。

「二人乗りって言ったら、あれだろ、帰り道に俺が自転車こいでる所にお前が後ろに乗ってさ、
 こうぎゅって抱きついてきたりして、そんでもって長い長い下り坂をブレーキいっぱい握りしめて
 ゆっくりゆっくり下ってく、みたいなアレを想像してたんだが」
「普通の自転車に二人乗りすると捕まるぞ。その点コレなら最初からこういうもんだから許可されてる。
 抱きつくのは無理だけど、これはこれでけっこう楽しいだろ?」
「――ん。まあな」

 ペダルの回転速度を自分で調節できない違和感に最初こそ戸惑いはしたけれど、
そこは一応は深い仲と呼ばれる相手だ、すぐにこいつのリズムを体で掴む。
 普通の自転車とは違う呼吸をあわせての運転はこいつと一つになったようで中々に面白い。
 俺が後ろだし、そもそもサドル間の長さがけっこうあるから抱きついてもらうことはできないけれど
こいつの背中がいつも視界にあるというのは悪いものじゃなかった。

「ところでこれ、お前の私物? 初めて見たけど」
「いや、これはレンタルだ。欲しいとは思ってるんだがけっこう値段が張るし、大きいから場所も取る。
 何よりタンデム用に一人で乗ることを考えてみろ、ちょっと物悲しいぞ」
「……なるほど」

 バイクと違って人力で動かすわけだから、一人で乗るならせっかくの座席もただの重りになってしまう。
 何より、せっかく誰かを乗せることができるのに空いたままのスペースは、きっと少し寂しい。

「でも、だったら俺を誘えばいいじゃん」
「マジで?」
「マジで。買うなら協力しようかって思うくらいには気に入った」
「実はそう言ってくれるのを期待して乗せたんだけどな」
「おいてめえ」
「いやあ、きっと乗ったらこの魅力にハマってくれると思って」
「まあ、ハマったんだけどな」

 もとより男同士妙なカップルなんだ、乗り物だってちょっと妙なくらいでちょうどいい。

「これでどこに行くにも、ずっと一緒だな」
「……何かお前が言うと恥ずかしい!」