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天然vs偽天然

 男はかわいいなどと言うものじゃないと思っていた。
 好きだとか欲しいとか言わないことを「わがままでない」と褒められる生い立ちだった気がする。
 すぐ下の妹と違う、俺は大人なんだ、お兄ちゃんなんだと望まれるままに。
 だから衝撃だった。
 男のくせにかわいいネコだとか犬、花とかファンシーな雑貨に、何の抵抗もなく
「かわいい。これ俺好きだなー」
 相好を崩せる高見が、とんでもなく偉い人物に見えた。
 人は自分に無いものを求めるという。高見はただの空気読めない変人だったのに。

 最初に「お前、馬鹿か? 男のくせに」と、そういう態度をとってもよかったのだ。
「かわいいな」
 同意したときから俺は高見の同類と認識されたらしい。
 高見はしきりにご推薦の『かわいい』アイテムを披露するようになり、なぜだか俺も相づちを打った。
 ゼミやサークルの友人達は、俺達を天然コンビと評した。
「あ、ネコ」
 道を歩けばふたりで、犬やらネコやら、ゲームセンターのかわいい景品やら小さなキャラクターに道草する。
 特にネコは、見つけるのは俺の方が圧倒的に多く、視力のやや悪い高見はそのたびに
「尾方のネコセンサーはすごい」
などとよくわからない言葉で俺をほめた。
「すごいだろ」
「うん、すごいな」
 他愛もない、気の置けない時間。
 単位だ、バイトだ、合コンだとギラギラしている日常の隙間でぼんやりとネコを見つめているうちに、俺のどこかがほどけていく。

「あ、かわいいな」
 今日も散歩中のむくむくした柴犬に見とれていると、高見が
「尾方くんに似てるよね」
と言いだした。
「むっちりした筋肉とか、真面目そうな顔が似てる」
 またも随分飛ばしてきたものだ。さすがに首を傾げると、覗き込んできた目がニッと細くなった。
「柴犬に似てる尾方くんって、かわいいよね」
 一瞬、何を言われたのかわからなかったくらい。
 自覚しているが、こうしてかわいいものを高見のために探してはいるが、俺自身はかわいいとはまったく縁のない男だ。
 ないないない。おかしいだろう。
 俺はひどくうろたえた。
 いったい何事に衝撃を受けているんだ、俺は? 急に襲ってきたこの感情自体が、正体不明だ。
「……俺はかわいくない」
 狼狽は照れとは違って、罪悪感すら覚えるくらいいたたまれない。
 なのにやっぱり高見は空気読めない奴で、俺の耳を触って
「すっごい赤い。熱くなってるよ? こんなに赤くなる人初めて見たかも」
 子供のように感心しながら、
「尾方くん、かわいいって言われるの好き?」
「えっ」
 問われて絶句、「好きじゃない」とつぶやいた声はもごもごと口の中で消える。
 耳だけじゃなく顔が熱い。
 こんなでかい男が絶対ひどいありさまだ。
 なのに、高見は笑った。本気で大好きなかわいいものを見つけたときの顔で。
「かわいい。尾方くんかわいい」
 ああ、やっぱり高見には敵わない。