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二人がかりでもかなわない

昼休みの教室内、トイレから戻ると、むさ苦しい友人たちが顔を寄せ合っていた。
なにかおぞましい儀式でも行われているのかと近付いてみると、そこにあったのは幼い頃からよく見慣れた光景だった。
「なにやってんの?」
劣勢と思しき二人が声を上げる。
「あ、上原!加勢してくれよ!」
「おかえり!放課後のラーメンかかってんの!」
「ふーん」
ごく一般的な表現をするならばそれは腕相撲と呼ばれるものに似ていた。
ただし行われていたのは多対一、つまり小中高と野球一筋の体育会系代表である日野の右腕に、友人の森と園部がなりふり構わずぶら下がっていた。
「上原が入ったぐらいで負けるかっつーの」
明るく笑う日野に煽られ、園部が余計ムキになる。
「来い上原!三本の矢作戦だ!」
三本の矢とは力を込めるのが人だから使える言葉であって、象だの虎だのハリウッド仕込みのゴリラだのを相手にしても意味はないのだ。
従ってモテたいだけのバスケ部員二人に根暗バンドマンが一人加わったところで、校内屈指の強打者に勝てる訳もない。
「あと10秒で倒せなかったら俺の勝ちだからな」
白い歯を見せて笑う日野。
なぜか吸い寄せられるように、上原はその横顔へ口付けた。
「…へ?」
力の均衡が崩れ机が大きくガタン、と揺れた。しゃがんでいた園部が尻餅をつく。
「うえはら…」
日野はそれだけ呟くとぽかんと口を開け、子供のような顔をしている。耳まで真っ赤だ。
「俺らの勝ち?」
上原の声にはっとしたように森が横から「ラーメン!」と叫んだ。
日野は呆然としたままで「わかった、放課後な」とだけ答える。
5分前を知らせる予鈴が鳴り始めると、教室は一層騒がしくなった。
森と園部に続いて、上原も自分の席へ戻る。
手を引いてそれを止めたのは日野だった。まだ頬が赤い。

喧騒に消えた言葉の先は、他の誰にも聞こえなかった。