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芸術学部生×体育学部生

人も疎らな午後の食堂。
トレーを持った斎藤に話しかけられたとき、俺は戸惑いを隠せなかった。
何故ならば一貫校である中学入学から、大学に進学した今までの約七年。会話なんて数えるほどで、はっきり言って接点もない。
そんな彼は、ごく当たり前のように俺の前に座り、笑顔で言った。
「一緒に食っても良い?」
「いいけど…。」
「なにその怪訝そうな顔。」
何故か気分を害してしまったらしい彼は、よく見ると凄く整った顔をしている。なんてことも今気付いた。

「俺らさ、中学から実はずっと同じクラスだったんだよね。」
知ってた?とテンション高めに言われて、思わずへぇーと漏らしてしまった。

「まさか本当に知らなかったとは思わなかった…。」
しゅん、と肩を落とす彼が何だか居たたまれなくなって、慌てて付け足した。
「いや!でもお前のことは知ってるよ?何かまた代表選ばれたらしいじゃん。新聞見たし、こないだ雑誌でも特集されてたろ。」

「マジで!俺の記事とか見てくれてたんだ!?」
その嬉しそうな笑顔は先日スポーツ誌の裏一面を飾ったものと同じで、こんな有名人と同じ教室で6年も過ごしていたことに改めて驚いた。

「俺さ、実は溝口のピアノ超好きなの。」
キラキラした笑顔のサッカー少年は、急に話題を変えた。
「だからやめるとか言うなよ。」
「何だそれ。」
「別にふつーに治るんでしょ?それ」
目線で指されたのは、包帯の巻かれた左手親指。

「お前にゃ関係ねーよ。」
「あるよ。」
「は?」
「言ったじゃん。俺、溝口のピアノ超好きなの。」

治ったら俺の為に弾いてよー
とかいうサッカー少年を、この時の俺はうるさいとしか思っていなかった。