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雪の降る町降らない町

「雪が見てみたい」
『突然どうしたんです』
「此処は雪が降らない。私は文献の記述でしか、雪というものを知らない」
『そうなんですか。僕は知ってます。こちらではたくさん降りますからね』
「嫌味な奴だな」
『そんなつもりで言ったんじゃありませんよ。気に障ったのなら謝ります』
「雪とは冷たいものだそうだな。雨よりも冷たいのか」
『それはまあ、気温が低くないと雪にはなりませんからね。雪も雨も元は同じものです』
「お前の手よりも冷たいのか」
『さあ、どうでしょう。ああでも、僕が冷たいと感じるのだから、僕の手よりも冷たいのかも』
「そうか。まったく想像がつかん。お前の手より冷たいものなど存在するのか」
『それ、僕は喜んでいいんですか?それとも悲しむべき?』
「好きにしろ。……お前は雪が好きなんだな」
『は?』
「雪はお前よりも冷たいのだろう。お前は、お前より優れたものが好きだと前に言っていたではないか」
『これはまたえらく飛躍しましたね。冷たいというのは事実であって、僕の評価じゃありませんよ』
「雪を知らない私にとっては同じことだ」
『それに、雪が降るところには降るところの苦労がいろいろあるものです。
 それにしても意外ですね。そちらは雪が降らないのですか』
「当たり前だろう。雲の動きを考えろ」
『でも、そちらには何でもあるじゃないですか。無いものを探す方が難しいくらい』
「そんなことはない。此処には何もない」
『うーん、それはこちらに対する嫌味にならないんですかねえ』
「そんなつもりは無い。私は常日頃から感じていることを正直に言っている」
『貴方の正直さはいつも美しい』
「心が篭っていないな。お前はいつもそんな調子だ。だから信用ならん」
『その上で僕を愛して下さる貴方のことが、僕は大好きですよ』
「本当に空っぽだな、お前は」
『残念ながら、篭める心が無いもので。……それで?』
「なんだ」
『貴方は死ぬのですか?』
「……。なぜそうなる」
『急に雪が見たいと仰った。僕の手の冷たさを思って下さった。普段の貴方は、下界に関心など持たないでしょう』
「…………」
『僕は僕より優れたものが好きですが、それは僕と貴方が元は同じものだったからですよ。
 貴方は僕より優れていて、僕より温かくて、僕など比べ物にならないくらい正直で。でもそれだけだ』
「私が雨で、お前が雪か」
『そういうことです。だから、貴方の考えていることは分からなくても、感じているものは解ります。
 貴方とこんな風に話が出来るのは、僕をおいて他には居ない。自惚れの特権のようなものです』
「おめでたい奴だ」
『貴方が雪が見たいというのなら、僕が迎えに行きましょう。今すぐにでも』
「……お前と通じていることが同胞にバレた」
『ああ……それはそれは』
「此処にもはや私は不要だ。私は、否、我らは、死に染まった同胞を許すことはない。
 我らを堕落させる貴様らを、許すことはない。此処には何も無い。それが全て」
『いつ聞いても大袈裟な口上ですねえ』
「真実だ。私の評価ではない」
『僕らの仕事は真実と虚構を掻き混ぜる事なので真と否はさして重要では無い。
 初めてお会いしたときにそう言いましたよね。憶えていますか?』
「ああ、憶えている」
『貴方はもっと高望みしても良いと思いますよ』
「だからお前とこうして話をしているだろう。私の最後の我侭だ」
『それは光栄なことです。……雪、こちらでは今ちょうど降っていますよ。とても、とても静かです』
「そうか。羨ましいことだ。此処では太陽しか見えない」
『ああ、解けても良いから、あのとき貴方を攫えば良かった』