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攻めにべた惚れな無表情受け

酒を飲むのは好きだった。
垣間見える水原の本音がたまらなく愛しくて。
常にむすっとしてつまらなそうな、堅物を絵に描いたような水原が、ひょろ長い図体を納めようとしてソファでもぞもぞと転げるのを見るのが好きだった。
「水原、寝るならベッドに行けよ、使っていいから」
「んー…」
いつもそう、きっと今日もそう。このままソファで寝付いて寝違えて、明日にはすっかり首を痛めて一日を過ごす。
それでもいつもと変わらぬ、少し不機嫌そうな無表情のまま。
「水原、起きないとチューするよ」
普段なら怒られるような幼い言葉遣いにも、「あー」と呻いて応えただけだった。
「水原ぁー?」
肩を引いて無理矢理に頬に口付けると、「…ふへ」と小さな声が聞こえる。
「…なんだよそれー、かわいすぎるでしょー」
少し頭を冷やそうとテーブルに向き直る。
「食器下げるか」
つまみの乗っていた皿を重ね、グラスに手を伸ばす。ついでにまだ形の残っていた溶けかけの氷を口に含んだところで、後ろから耳慣れない鈍い音がした。
「どうしたー?っておい!」
振り向くと水原は見事にソファから落ちていた。
別段異常はないようで安心する。
「お前なぁ」
近付くと、足首の辺りをそっと掴まれた。
「浅井くん、どこ行くの…?」
「え」
驚いた。
そんな呼び方をされるのは知り合ってすぐの頃だけだったし、なにより水原がこんなことを言うだなんて信じられなかった。
あんなに切なそうな顔で名前を呼んで。
「どこってお前、」
顔がにやける。むずむずと嬉しさがこみ上げてくる。
俺は手にしていた食器をすぐにテーブルへ戻して水原に覆いかぶさった。
「水原、チューしていい?」
「え、なに、浅井くん?」
言いながら水原は僕の頬を包み込み、そのまま首に手を添えた。
ああ可愛い。可愛い可愛い可愛い!
ああもう水原、僕はもう死んでもいい。
何度か唇を啄ばむと、合間に水原が「浅井くん」と俺を呼んだ。
知らなかった、こんなに愛されていただなんて。
贅沢を言えば問題の無い日々にどこか不安や不満さえ感じていた。
だから家に誘ったのだ。いつもより少し大目の酒を買い込んで。
少しばかり乱れて可愛い顔をしてくれてもいいじゃないか、バチは当たらないじゃないかと。
それがこうも素晴らしいものが見られるとは。

「浅井くん」
開いた口に齧り付く。口に含んでいた氷のせいか、水原の舌が恥ずかしいほどに熱く感じる。
まだ微かに残っていた氷の粒が、意図せずするりと水原の口へ移る。
気がつくと僕は、床に頭を打ち付けていた。
先ほどまで見ていたはずの景色は一変し、白い天井が目に飛び込んでくる。遅れて痛み。
「いっ…!?」
「なにしてくれてんだ、浅井」
顔を上げるのが躊躇われる程度の威圧感でもって、水原はソファにどっかりと腰を下ろした。
視界の端でこれでもかと口を拭っているのがわかる。
「いい度胸だなお前」
「水原…ごめん」
だってお前が。そんな情けない言葉で反論しようと起き上がると、抜群のタイミングで水原に顔を踏まれた。これは相当怒っている。
首を傾け、足の横から恐る恐る顔色を伺う。
「もうお前んちには来ないからな」
そう言って眠りを覚ました元凶であろう氷をガリガリと噛み砕いている。見慣れた無表情、だが耳が真っ赤になっている。
「水原ぁ!」
たまらず飛びつくと、今度は小さく「うるせーな」と答えるだけだった。抱きしめても嫌がる素振りはない。
「水原、好きだよ水原」
耳元へ囁くと、「ふ」と短く照れた笑いが聞こえた。「俺もだよ」と応える水原は、一体どんな顔をしているのか。
時計を見るとまだ23時。
僕はもう一度強く、水原を抱きしめた。