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インド人DK

私は大きな通りの片隅でケータリングカーでドルネケバブを作って売っています
今はすっかりこの場所にも馴染んで、それなりに売れるようになりました
昼時なんか凄い列になったりもします
私にはとても意識しているお客さまがいました
それは近くにある高校の生徒さんでした
公立高校ですが、東大や早慶合格者をゴロゴロ出すような凄い進学校でした
低偏差値おバカ高校を経て調理師専門学校卒の私には想像も付かない世界です
私が始めてここに店を出したのは七年前の秋の酷い雨の日曜日でした
昼からずーっと一人もお客さまが来なくて泣きそうでした
夕方頃に初日はお客さまゼロのまま諦めて帰ろうとしたら、車の前に一人のブレザー姿の若い男性が立ってました
「あのー、もう終わりですか?」
「いや、やってますよ」
「ならドルネケバブ下さい。肉はビーフとチキンですか? 自分はヒンドゥーなんでチキンを・・・」
初めてのお客さまでした
暗めの褐色の肌に髪は金髪で、目鼻立ちははっきりしていて、見たことのないタイプのかっこいい人でした
高位の宗教者のような品と紫檀製の調度品のような艶と年齢に見合わない落ち着きを雰囲気にまとっていました
ヒンドゥーという単語でインド人だと分かりました
商売を始めて最初のお客さます
張り切って作らせて頂きました
「ああウマイです。部活帰りでマジお腹すいてて、でもどうもコンビニのものは嫌いで・・・マジウマイです」
静かに笑いつつ、その場で凄い勢いで食べてくれました
雨脚が強まったので、そのお客さまは小走りで駅の方に向かいました
私はその背中を見送りながら、嬉し涙がこみ上げて来ました
初めてのお客さまがあのお客さまで本当に良かったと思いました

その後もお客さまは頻繁に買いに寄ってくれました
本人だけでなく部活の仲間を一緒に連れて来てくれることもありました
お客さまは三年生に進級して部活は引退し、本格的に受験生になったようでした
それでも学校帰りによく来てくれました
そして卒業シーズンを迎えました
お客さまは卒業証書をわざわざ見せに来てくれました
お客さまは言いました
「自分はこれから父の故国のインドの大学に留学します。入学は九月ですが準備のために来週に渡印します」
私はなぜか思わず
「行かないで!」
と返しそうになって慌てて言葉を飲み込みました
その日はお代は頂きませんでした
もう長いことあのお客さまとは会ってませんが、今でも忘れられないお客さまです
あの頃は二十歳そこそこだった自分も今は四捨五入すれば三十歳
歳月は経ましたが一度も忘れたことのないお客さまです
ああ今日は酷い雨ですね
物凄く酷い雨です
あのお客さまと初めて会った日と同じような雨です
人通りもほとんどありません
ちょっとヤル気が失せて来ました
早めに撤収しましょうか・・・
「あのー、もう終わりですか?」
「!」
「ならドルネケバブ下さい。肉はビーフとチキンですか? 自分はヒンドゥーなんでチキンを・・・」
あの頃はまだあどけない雰囲気が残ってましたが、今はすっかり大人になって・・・
あの日の気持ちを思い出して心を込めて作らせて頂きます