執事と僕

トテテテテテ「ひつじさん!ひつじさん!」
「…君はなかなか訛りが抜けませんね…"し"」
「"ひ"」
「"し"」
「"…し"」
「"しつじ"」
「"し、つじ"、さん!」
「よろしい。さて、ご用件はなんですか?」
「あ!えと、お馬さんにお水、あげました!お庭のおち葉も、全部まとめました!」
「そうですか、君は仕事が早いですね。助かりますよ」ナデナデ
「ほかにお仕事は、ありますか?」
「そうですね…ではベッドメイキングのお手伝いをお願いします。」
「はい!」
「ああ、その前に台所に行って、おやつをもらってきなさい。君の分を取ってあります。」
「わあ!はい!いただきます!」トテテテテテ


「しつじさん!しつじさん!」
「ああ、君ですか。どうしました?」
「ぼく算数ができるようになりました!」
「そうですか。それは良かったですね。」ナデナデ
「はい!あ、あと読み書きも少し、できるようになりました!」ニコニコ
「君は賢いですね。いつかご主人様のお役にたてるよう、今後も勉学に励んでください。」
「はい、がんばります!」
「ああそうだ。仕事が終わったら、私の部屋に来なさい。私が幼いころに読んでいた本を、譲ってあげよう。」
「!! はい!ありがとうございます!」

「執事さん!お呼びですか?」
「ええ。この書類を、急いでご主人様に届けてもらいたいのです。」
「はい!」
「お出かけ先は、わかりますか?」
「はい、大丈夫です!僕、行ってきます!」
「自分のことは、"私"と言いなさい。
 使用人とはいえ君もこの家に携わる者。きちんとした言葉づかいを身につけなければなりません。」
「わ、私」
「そうです。"私が、行ってまいります"。」
「えーと、(コホン) 私が、行ってまいります。」
「よろしい。」ナデナデ
「はい!」
「では、お願いします。」
「はい! 急いで行ってまいります!」


コンコン「失礼します。」
「入りなさい。…ああ、君か。待っていました。」
「何かご用でしょうか?」
「先月の、支払簿の件なのですが。」
「その件でしたら、こちらに。計算はすべて終わっております。」
「そうですか。あと、来月の落成式のスピーチ原稿の方は?」
「私のほうで草案は書かせていただきました。あとでご確認をお願います。」
「君は本当に、優秀ですね。」
「執事さんのご指導のおかげです。」
「助かりますよ。」ナデナデ
「あ、ありがとうございます。」テレ

ガタガタッ バタン!
「…し…執事さん…」
「なんですか、こんな時間に騒がし…っ!」
「あ、あの、ぼ、ぼく、いやわた…」
「君っ!何があったんです!」
「…ご主人さまに、お、襲われました…」
「!?」
「あの、お部屋に呼ばれて、それで、あの、ずっと見ていたと仰って、覆いかぶさってこられて」
「…っ!」
「で、思わず、ご主人様を、殴ってしまって、その、息はあるんですけど、ご主人様、揺さぶっても目を覚まさなくて」
「…なんということだ」
「ど、どうしましょう。執事さん。ぼ…私、どうすれば」オロオロ
「逃げましょう」
「え?」
「私としたことが…自分の気持ちに、今、気付きました。私と共に逃げましょう。」
「え?え?」
「今気付きましたが、私は、たとえご主人様にでも君を譲る気がないほどに、君を愛しています。
 もし君が私に少しでも好意を持っていてくれるなら、私と共に逃げましょう。」
「…愛して?」
「ええ、この家も執事の座も捨てられるほどには。
 …ああ、でも、こんな時にこんな状況で告白するのは、卑怯ですね。
 君にその気が全くなくても大丈夫ですよ。君だけは助けてみせます。」
「そんな」
「…申し訳ありません。君を混乱させてしまいました。」
「いえ、大丈夫です。その、…僕も、ずっと執事さんが好きでした。
 あっ!えっと、あの、わ、私も!ずっと好きでした!好きです!」
「…"僕"でいいですよ」ナデナデ
「え?」
「君が"ぼく"というときの唇の動きが、実はかわいらしくてとても好きなんです。」
チュ
「!?」
「さて、では急ぎましょう。必要なものを手早くまとめて、5分後に裏門へ。できますね?」
「はい!」
「ああ、そうそう。門を出たら、私のことは名前で呼ぶように。」
「え?」
「今からは、この家の執事ではなく君の恋人になるわけですから。」
「…っ! は、はいっ!」


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最終更新:2012年06月20日 04:01